コラム

自転車シェアリング、バブル破裂後の着地点

2019年07月26日(金)11時00分

ただ、中国の市民の行動範囲は基本的には自分が住む都市が中心であろうから、まずはその都市のなかの要所要所にシェア自転車があればそれで基本的なニーズは満たされることになろう。私のように出張で中国のいろいろな都市に出かける者にとってはどの都市でも見つかる可能性の高いモバイクのような大手が便利だと考えるが、中国の市民にとっては自分が住んでいる都市のなかで最も便利な業者はどれだろうと考えるはずである。

つまり、一都市で集中的に配置するドミナント戦略でも「規模の経済性」を獲得できるのである。モバイクやofoは全国の主要都市のどこでも優位に立とうと頑張ったが、少数の都市で優位に立つ戦略をとった中小業者と大きな差をつけることができず、やがて資金が続かなくなってきた。

モバイクは2018年4月に配送サービスや共同購入サイトを手がける美団点評に27億ドルで買収されたが、その後美団点評のもとでその惨憺たる財務状況が明らかになった(『猟雲網』2018年9月7日)。買収が成立した4月4日から4月末まで、モバイクの利用料金からの収入は1.47億元だった。ところが、メンテナンスなどの運営経費だけで1.58億元、自転車等の減価償却費は3.96億元にも達していた。つまり、このひと月足らずの期間にも4億元余り(64億円)もの赤字だったということになる。

単純に計算すると、収支を均衡させるためには1回の利用あたりの単価を4倍に引き上げる必要があった。しかし、そんなに値上げしたらユーザーが離れる懸念があり、果たして損益分岐点が存在するのかどうかさえ怪しい。

公共交通を補完する役割

ofoはもっと悲惨だった。2018年9月には自転車の供給を受けていた上海鳳凰自行車から代金未払いで訴えを起こされた。ユーザーに対するデポジットの返金も滞っており、消費者相談窓口には2018年11月だけでofoのデポジットをめぐる訴えが2533件も寄せられたという。

2017年には「新四大発明」の一つとさえ持ち上げられた自転車シェアリングだが、2大事業者が行き詰るなか、このまま泡と消えてしまうのだろうか。

現状を言えば、シェア自転車は以前に比べて数は減ったもののまだ存在する。ただ、モバイクとofoの自転車の数は明らかに減った。

しかし、私は自転車シェアリングは消えたりはせず、安定的運営への着地点へ向けて動き出していると考える。そう思うのは、まずその利便性に対して消費者の支持があること、地方政府にとっても交通渋滞の緩和というメリットがあるからである。一方では膨大な数の粗大ごみを都市にばらまくという問題もあったが、都市の公共交通を補完する役割も果たしている。今後は都市政府の規制のもとでより安定的に運営される方向へ向かうだろう。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story