日本経済の地盤沈下を象徴する航空業界
ドイツにしばらく住んでいた経験からすると、ヨーロッパ域内の航空運賃は日本国内よりだいぶ安い。ヨーロッパのどこへでも片道50~100ユーロ(6000~12000円)で行けてしまう。JALやANAで東京から札幌や福岡に行こうとすると、割引運賃でも片道3万円ぐらいかかる。香港や台北に行くのと変わらない。
なぜヨーロッパの航空運賃が安いのかというと、ヨーロッパ域内は格安航空会社(LCC)の天下だからである。だいたいどこへ行くにもライアン・エアー、イージー・ジェット、ユーロウィングズといったLCCが便利、というか、それしか選択肢がないことも多い。
日本でもLCCがだいぶ増えてきて、東京―那覇などリゾート路線ではけっこう飛ぶようになったが、最も客数が多い東京―札幌、東京―福岡といった路線はJALとANA以外の選択肢が乏しい状態が続いている。
ヨーロッパでは域内はLCCで移動するのが当たり前になったのに、日本ではJALとANAの二社寡占の状態がなかなか変わらない。それは、社用出張族が国内線の乗客の大きな割合を占めていることと関係しているのではないだろうか。
大手航空会社を支える社用族
東京―福岡便などに乗ると、乗客の95%がスーツ姿のサラリーマンということも珍しくない。航空運賃は会社の経費で落とせるから、お高くても伝統と信頼のJALとANAが選ばれるのだろう。
加えて、JALとANAは頻繁に出張するサラリーマンに対して秘かな役得を提供している。この2社のマイレージの還元率は異様に高いのだ。1万マイルたまれば、1万円分の金券に換えることができる。東京・上海間をエコノミークラスで5往復すれば1万マイルに到達して1万円キックバックされる。私は外国の航空会社のマイレージクラブにもいくつか入っているのだが、数万マイルたまっても何の恩恵もない。マイレージによる還元はJALとANAから日本企業の出張社員全体に対するやんわりとしたリベートである。
こうして、日本の国内線は、ヨーロッパ域内やアメリカ国内に比べてざっと2倍以上の航空運賃をとるJALとANAの寡占状態で落ち着いている。経費と出張社員の役得に甘い日本の企業社会と日本の航空会社との間で暗黙の結託が成立している。
その帰結が図1でみたような日本の航空旅客数の長期停滞である。日本の航空業界の停滞は、日本経済の停滞の帰結ないし反映というよりも、それ自体が日本経済の停滞の一因であるとさえ言えそうである。LCCによる価格破壊の波を日本の国内線にも呼び込み、もっと気軽に飛行機に乗れるようにすれば、日本の航空旅客数はかなり増えるだろう。これぞ粉飾する必要のない真水の経済成長である。
※3月12日号(3月5日発売)は「韓国ファクトチェック」特集。文政権は反日で支持率を上げている/韓国は日本経済に依存している/韓国軍は弱い/リベラル政権が終われば反日も終わる/韓国人は日本が嫌い......。日韓関係悪化に伴い議論が噴出しているが、日本人の韓国認識は実は間違いだらけ。事態の打開には、データに基づいた「ファクトチェック」がまずは必要だ――。木村 幹・神戸大学大学院国際協力研究科教授が寄稿。
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