ファーウェイ問題の核心
FDDの場合、道路みたいに下り車線は渋滞しているが、上り車線はスカスカということが起こりうるが、TDDの場合、交通量に応じて上り・下りになる時間を調整できるので、同じ交通量を全体としてより狭い道路幅でさばくことができて効率的である。スマホだけでなく、自動車や家電製品などあらゆる機器がネットワークにつながり膨大な情報をやりとりする5Gでは、TDDの優位性が際立ってくるはずである。
中国勢がTDDに強くなったのはいわば「ケガの功名」である。中国政府は携帯電話が爆発的に普及した第2世代(2G)の時代(1990年代)にもっぱら欧米の機器に依存せざるをえなかったことから、2000年代の第3世代(3G)には独自の技術標準を打ち立てようと意気込んで、多額の国家資金を注いでファーウェイなど国内の企業に開発させた。有力だった日本・欧州の方式と北米の方式に対抗して中国が採用したのがTDD(3Gの時の名称はTD-SCDMA)である。
だが、上り・下りを時間によって切り替えるのは当時の技術水準では難しく、開発は難航した。日本では日欧方式による3Gのサービスが2001年に始まったのに、中国では政府がTDDが完成するまで3Gのサービス開始を認めない方針をとったため、2008年にようやくTDD、日欧方式、北米方式による3Gサービスが始まった。しかし、高速通信ができますと言っても、中国には当時消費者を高速通信に引き付ける魅力的なサービスがなかったので、第3世代のTDDは大失敗に終わった。
TDDの強みが生かされるようになったのはむしろ2010年以降の第4世代(4G)においてである。折しもこの頃からフィーチャーフォンからスマホに乗り換える人が日本でも中国でも増えてきたが、大勢の人が一斉に大量のデータを受信する時代になると、単一の通信方式ではなく、複数の方式で通信したほうがいいということになり、中国のみならず多くの国の通信事業者がFDD(4Gの時の名称はLTE)とTDD(4Gの時の名称はTD-LTE)を併用するようになった。5GになるとTDDを含めていろいろな方式で機器をネットワークに接続するようになるだろう。
日本の通信事業者が、経済性と発展性に優れた機器サプライヤーを排除して、果たして消費者にとって魅力のある5Gのサービスを適正な価格で提供できるのか疑問である。5Gへの投資を急がず、米中摩擦のほとぼりが冷めるまで様子を見るというのも一つの選択肢である。
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