コラム

ファーウェイ問題の核心

2019年01月22日(火)17時49分

FDDの場合、道路みたいに下り車線は渋滞しているが、上り車線はスカスカということが起こりうるが、TDDの場合、交通量に応じて上り・下りになる時間を調整できるので、同じ交通量を全体としてより狭い道路幅でさばくことができて効率的である。スマホだけでなく、自動車や家電製品などあらゆる機器がネットワークにつながり膨大な情報をやりとりする5Gでは、TDDの優位性が際立ってくるはずである。

中国勢がTDDに強くなったのはいわば「ケガの功名」である。中国政府は携帯電話が爆発的に普及した第2世代(2G)の時代(1990年代)にもっぱら欧米の機器に依存せざるをえなかったことから、2000年代の第3世代(3G)には独自の技術標準を打ち立てようと意気込んで、多額の国家資金を注いでファーウェイなど国内の企業に開発させた。有力だった日本・欧州の方式と北米の方式に対抗して中国が採用したのがTDD(3Gの時の名称はTD-SCDMA)である。

だが、上り・下りを時間によって切り替えるのは当時の技術水準では難しく、開発は難航した。日本では日欧方式による3Gのサービスが2001年に始まったのに、中国では政府がTDDが完成するまで3Gのサービス開始を認めない方針をとったため、2008年にようやくTDD、日欧方式、北米方式による3Gサービスが始まった。しかし、高速通信ができますと言っても、中国には当時消費者を高速通信に引き付ける魅力的なサービスがなかったので、第3世代のTDDは大失敗に終わった。

TDDの強みが生かされるようになったのはむしろ2010年以降の第4世代(4G)においてである。折しもこの頃からフィーチャーフォンからスマホに乗り換える人が日本でも中国でも増えてきたが、大勢の人が一斉に大量のデータを受信する時代になると、単一の通信方式ではなく、複数の方式で通信したほうがいいということになり、中国のみならず多くの国の通信事業者がFDD(4Gの時の名称はLTE)とTDD(4Gの時の名称はTD-LTE)を併用するようになった。5GになるとTDDを含めていろいろな方式で機器をネットワークに接続するようになるだろう。

日本の通信事業者が、経済性と発展性に優れた機器サプライヤーを排除して、果たして消費者にとって魅力のある5Gのサービスを適正な価格で提供できるのか疑問である。5Gへの投資を急がず、米中摩擦のほとぼりが冷めるまで様子を見るというのも一つの選択肢である。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米テロ対策トップ辞任、イラン戦争支持できず 「切迫

ワールド

トランプ氏、NATO消極姿勢を非難 イラン作戦巡り

ワールド

イラン交戦で新たに4500万人が飢餓の恐れ、WFP

ワールド

仏、敵対行為中は不参加 ホルムズ海峡護衛任務=大統
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在の価値でどれくらい? 誰が何のために埋めた?
  • 3
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったのか?
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    「危険な距離まで...」豪ヘリに中国海軍ヘリが異常接…
  • 6
    「目のやり場に困る...」グウィネス・パルトロウの「…
  • 7
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    生徒がいない間に...中学教師、教室でしていた「気持…
  • 10
    戦争反対から一変...湾岸諸国が望む「イランの脅威」…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 6
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 7
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 8
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 9
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 10
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story