コラム

シェアリングエコノミーが中国で盛り上がり、日本で盛り上がらない理由

2018年09月06日(木)20時00分

この計画を受けて、政府系シンクタンクの国家情報センターは「シェアリングエコノミー研究センター」を設立し、2017年から毎年報告書を出し始めた。それによれば中国のシェアリングエコノミーの取引額は2016年には3.5兆元(56兆円)、17年には4.9兆元(83兆円)で、それぞれ同年のGDPの4.6%、5.9%に相当する。

ちなみに、日本におけるシェアリングエコノミーの付加価値額は、内閣府の研究会の推計によれば2016年には4700~5250億円で、これは日本のGDPの0.1%程度であった。

中国は取引額、日本は付加価値額なので、同じものを比較しているわけではないし、「シェアリングエコノミー」という概念がカバーする範囲も同じではないとはいえ、シェアリングエコノミーが中国で盛り上がり、日本では盛り上がっていないということはこれらの数字から明らかである。

世界は変えたが日本は変えなかったシェアリング

中国では、以前このコラムで紹介したライドシェア自転車シェアリングの普及によって、国民の間にシェアリング(共享)という考え方が浸透しつつある。最近ではベンチャー企業が投資家からカネを引き出すために、シェアリングという言葉をいささか乱用しすぎているきらいがあり、キッチンシェア、傘シェア、充電バッテリーシェア、カラオケボックスシェア、トレッドミルシェアなどシェアリングをうたったサービスがいっぱい出ている。

一方、日本ではシェアリングエコノミーに対する国民の認知度はとても低い。先ほど引用した内閣府の調査によれば、日本のシェアリングエコノミーの約半分を占めているのはメルカリなどを介した中古品売買である。これ以外の分野となると、日本ではそもそも存在してさえいないケースが多く、シェアリングを体験したことがない日本人が大半ではないだろうか。

日本でシェアリングエコノミーを紹介した先駆的な本として宮崎康二氏の『シェアリングエコノミー』(日本経済新聞出版社、2015年)があるが、その副題は「Uber, Airbnbが変えた世界」という。私も勉強させていただいた好著であるが、いまこの副題を見ると複雑な気分になる。「ウーバーとAirbnbは世界を変えるのかもしれませんが、残念ながら日本では両者とも封殺され、日本はほとんど変わりませんでしたね」と言いたくなる。

ライドシェアは、わずかに京丹後市丹後町という人口5000人の地域で許されているのみで、それ以外の日本では全面禁止である。中国のライドシェアアプリを介して、日本に住む中国人のドライバーが空港で観光客を拾ったりしたこともあったようだが、そんなささやかな動きであっても、すぐに日本のジャーナリストが嗅ぎつけて警察に取り締まるよう訴えた。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インドネシア中銀、2会合連続金利据え置き ルピア安

ワールド

政府・日銀、高い緊張感もち「市場注視」 丁寧な対話

ビジネス

オランダ政府、ネクスペリアへの管理措置を停止 対中

ワールド

ウクライナに大規模な夜間攻撃、10人死亡・40人負
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story