シェアリングエコノミーが中国で盛り上がり、日本で盛り上がらない理由
「シェアリング」を意味する雲南省ナシ族の象形文字。2人で1つのものをシェアしている図(筆者撮影)
<ウーバーやairbnbに代表されるシェアリングエコノミーは、車や空き部屋など余った資産を使おうという先進国の発想から誕生した。それが中国で急成長を遂げ、日本ではサッパリなのはなぜか>
シェアリングエコノミーという概念は、レイチェル・ボッツマンとルー・ロジャーズが2010年に刊行した『シェア』(原題What's Mine is Yours)という本がきっかけで生み出された。この本では、ライドシェアのウーバー、民泊仲介のAirbnb(エアビーアンドビー)など、インターネットを介した様々なシェアリングの仕組みを紹介している。これらを総称する言葉として、同書では「協働消費(collaborative consumption)」という概念を提唱しているが、その後はむしろ「シェアリングエコノミー」という言葉のほうがよく使われるようになった。
ボッツマンとロジャーズの本は、現代のアメリカやイギリスのライフスタイルがいかに資源を無駄にしているかを説き、シェアリングエコノミーが無駄を克服する有効な手段になりうることを熱っぽく語っている。
この潮流に鋭く反応したのが中国である。ウーバーは2014年から中国でライドシェアのサービスを始めた。同じ年、それまでスマホでタクシーを呼べるアプリを展開していた滴滴と快的も、タクシーだけでなく、一般ドライバーが運転する車もアプリで呼べるようにした。これらは日本風に言えば「白タク」なので、当然既存のタクシー会社や地方政府は反発した。
だが、こうしたサービスの登場を国民は大歓迎し、利用者がぐんぐん増えていった。2015年になるとライドシェアが事実上公認されるようになり、サービスを運営するウーバー中国や滴滴などにはアリババ、百度、テンセントなどのネット企業から多額の投資資金が流れ込み、大きく発展した。
「白タク」ドライバーが全国に2100万人
その後、滴滴と快的が合併し、ウーバー中国の事業も吸収したため、現在は滴滴出行という一社が市場の75%を占有するガリバーとなっている。そのプラットフォームでライドシェアを提供したタクシー以外のドライバーは1年間で実に2100万人にものぼる。
中国政府もシェアリングエコノミーの発展を積極的に支援する姿勢を見せている。中国の経済政策における最も重要なガイドラインは5年ごとに作成される5カ年計画だが、現在進行している「第13次5カ年計画」(2016年~2020年)のなかでも、シェアリング(中国語では「共享」または「分享」)という言葉がたびたび登場する。創業を支援するために、ワーキングスペースやネットのプラットフォームの共有を進める、という形でシェアリングに言及されることが多いが、シェアリングエコノミーを普及させるための「実験区」を作る、という構想も示されている。
EVと太陽電池に「過剰生産能力」はあるのか? 2024.05.29
情報機関が異例の口出し、閉塞感つのる中国経済 2024.02.13
スタバを迎え撃つ中華系カフェチェーンの挑戦 2024.01.30
出稼ぎ労働者に寄り添う深圳と重慶、冷酷な北京 2023.12.07
新参の都市住民が暮らす中国「城中村」というスラム 2023.11.06
不動産バブル崩壊で中国経済は「日本化」するか 2023.10.26
「レアメタル」は希少という誤解 2023.07.25