コラム

シェアリングエコノミーが中国で盛り上がり、日本で盛り上がらない理由

2018年09月06日(木)20時00分

「シェアリング」を意味する雲南省ナシ族の象形文字。2人で1つのものをシェアしている図(筆者撮影)

<ウーバーやairbnbに代表されるシェアリングエコノミーは、車や空き部屋など余った資産を使おうという先進国の発想から誕生した。それが中国で急成長を遂げ、日本ではサッパリなのはなぜか>

シェアリングエコノミーという概念は、レイチェル・ボッツマンとルー・ロジャーズが2010年に刊行した『シェア』(原題What's Mine is Yours)という本がきっかけで生み出された。この本では、ライドシェアのウーバー、民泊仲介のAirbnb(エアビーアンドビー)など、インターネットを介した様々なシェアリングの仕組みを紹介している。これらを総称する言葉として、同書では「協働消費(collaborative consumption)」という概念を提唱しているが、その後はむしろ「シェアリングエコノミー」という言葉のほうがよく使われるようになった。

ボッツマンとロジャーズの本は、現代のアメリカやイギリスのライフスタイルがいかに資源を無駄にしているかを説き、シェアリングエコノミーが無駄を克服する有効な手段になりうることを熱っぽく語っている。

この潮流に鋭く反応したのが中国である。ウーバーは2014年から中国でライドシェアのサービスを始めた。同じ年、それまでスマホでタクシーを呼べるアプリを展開していた滴滴と快的も、タクシーだけでなく、一般ドライバーが運転する車もアプリで呼べるようにした。これらは日本風に言えば「白タク」なので、当然既存のタクシー会社や地方政府は反発した。

だが、こうしたサービスの登場を国民は大歓迎し、利用者がぐんぐん増えていった。2015年になるとライドシェアが事実上公認されるようになり、サービスを運営するウーバー中国や滴滴などにはアリババ、百度、テンセントなどのネット企業から多額の投資資金が流れ込み、大きく発展した。

「白タク」ドライバーが全国に2100万人

その後、滴滴と快的が合併し、ウーバー中国の事業も吸収したため、現在は滴滴出行という一社が市場の75%を占有するガリバーとなっている。そのプラットフォームでライドシェアを提供したタクシー以外のドライバーは1年間で実に2100万人にものぼる。

中国政府もシェアリングエコノミーの発展を積極的に支援する姿勢を見せている。中国の経済政策における最も重要なガイドラインは5年ごとに作成される5カ年計画だが、現在進行している「第13次5カ年計画」(2016年~2020年)のなかでも、シェアリング(中国語では「共享」または「分享」)という言葉がたびたび登場する。創業を支援するために、ワーキングスペースやネットのプラットフォームの共有を進める、という形でシェアリングに言及されることが多いが、シェアリングエコノミーを普及させるための「実験区」を作る、という構想も示されている。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ベスト・バイ、通期予想を上方修正 年末商戦堅調で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平合意「極めて近い」 詳細

ワールド

中国の米国産大豆の購入は「予定通り」─米財務長官=

ワールド

ハセットNEC委員長、次期FRB議長の最有力候補に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story