コラム

日本の電子マネーが束になってもかなわない、中国スマホ・マネーの規模と利便性

2017年09月29日(金)08時10分

すると、人々がスマホ・マネーを持っていることを前提としたサービスが一気に開花した。 例えば、以前に本コラムで紹介した白タク配車サービスや、前回取り上げた自転車シェアリング、無人コンビニや現金を入れる穴のない自動販売機など、スマホ・マネーを持っていないと使えないサービスが増えている。これがまたスマホ・マネーへ人々を引きつけるプル要因となる。

2016年の中国におけるスマホ・マネーの利用額はなんと1000兆円に及んだ(艾瑞諮詢調べ)。一方、日本での電子マネーの利用額は2015年におサイフケータイを含めて4.5兆円弱だった(日本銀行決済機構局『モバイル決済の現状と課題』2017年6月)。しかも、日本の電子マネーは多数のブランドがひしめき合う群雄割拠の状況にある。もしここへ1000兆円の市場をほぼ二分する支付宝、微信支付が本格的に進出してきたら、まるで元寇が戦国時代の日本を襲うようなもので、群雄たちは枕を並べて討ち死にしてしまうかもしれない。

日本はブランドが乱立

「群雄割拠」という表現がピンと来ない人は、どこでもいいから近所のコンビニにいって、レジの周りを見てほしい。ざっと20以上の電子マネーやクレジット・カードのロゴが並んでいるはずだ。こんなにいっぱいあると、自分が持っている電子マネーが使えるのかどうか調べるのも一苦労である。

よく見ると、コンビニによって使える電子マネーが微妙に違っていることに気づく。下の表では日本の主なコンビニチェーンで使用できる電子マネーを整理した。○は使える、×は使えない、◎はポイントがつくとか、レジ打ち係が勧めてくるなど、各チェーンが優遇しているものを示している。

marukawa20170928123201.jpg

これを見てわかることは、交通系ICカード(Suica,Pasmo, Kitakaなど)やEdyなどの中間勢力はどこのコンビニでも使えるが、各チェーンで強く推している電子マネー(例えばローソンのPonta)は他のチェーンでは使えないということである。

こういうつまらない足の引っ張り合いをやっているから日本の電子マネー全体の利便性が高まらず、消費者が現金から電子マネーへなかなか移行しないのだと思う。結局、どの電子マネーも使える範囲が限定的で、現金に及ばない。だとすればやっぱり現金を持ち歩いた方が便利だ、ということになる。

ただ、日本にも現金を部分的に上回る利便性を持った電子マネーが一つだけある。それは交通系ICカードだ。電車・バスでの利便性は現金を上回るし、上の表でわかるようにどのコンビニチェーンでも使える。支付宝や微信支付はQRコードを使う仕組みであるため、仮に日本に本格進出しても、電車・バスにおける交通系ICカードの役割を奪うことはできないだろう。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー

ビジネス

NY外為市場=円急落、日銀が追加利上げ明確に示さず

ビジネス

米国株式市場=続伸、ハイテク株高が消費関連の下落を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story