コラム

アリババ帝国は中国をどう変えるのか?

2017年05月10日(水)15時18分

資金支援を受けてアリババは事業の拡張を続け、2002年に営業黒字への転換を成し遂げた。2003年にはC2Cのプラットフォームである淘宝網、2008年にはB2Cのプラットフォームである淘宝商城(後に天猫TMallに名称を変更)へと事業を展開する。こうした消費者向けのプラットフォームは、製品を安くして消費者を引き付けるためにウェブサイトの利用料金は低く抑える必要がある。アリババは有料のB2Bのプラットフォームで収益を上げ、それによってC2CとB2Cの利用料金を低く抑える戦略をとることで、後者の販売規模を拡大していった。

特に、B2Cの淘宝商城(天猫)では2009年から毎年11月11日を大セールの日と定めて販売促進イベントを行った。こうした活動の結果、電子商取引はすっかり中国の庶民に浸透し、天猫はそのなかで圧倒的なシェアを誇っている。2016年のB2C市場における天猫のシェアは56.6%である。

アリババの成功を語るうえで「支付宝」(Alipay)のことは外せない。先進国ではB2Cの取引ではクレジットカードを使うことが多い。一方、ヤフオク!のようなC2Cの取引では銀行振込を使うが、代金を振り込んだあと、果たして相手がちゃんと品物を送ってくれるのか、見知らぬ相手との取引だけに一抹の不安がよぎるのは否めない。

公共料金の支払いにも

クレジットカードが普及していない中国では、B2Cの取引でも銀行振込などを使わざるをえないが、それだと消費者は品物が送られてこないとか、劣悪なものが送られてくるのではないかという不安を持つことになる。

支付宝はインターネット上に現金を授受する口座を設け、買い手から代金が支払われたら商品を発送し、買い手のもとに品物が到着したら売り手の口座に入金、という仕組みを作ることによって売り手・買い手双方の不安を取り除くシステムである。インターネットを通じた見知らぬ相手との現金の授受を安心して行える支付宝や微信支付(テンセントが運営するネット上の支払いサービス)が存在しなければ中国で電子商取引が発展することは不可能だった。

いま中国では支付宝や微信支付をネット上の買い物だけでなく、コンビニでの買い物、電気や水道など公共料金の支払い、自動販売機での支払いなどに使う人がすごく増えている。自転車シェアリングや現金の投入口のない自動販売機など、消費者がスマホで支付宝や微信支付を使える状態になっていることを前提としたサービスも次々と登場している。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRBウォラー理事、12月利下げを支持 「労働市場

ワールド

トランプ氏、サウジへのF35戦闘機売却方針を表明 

ビジネス

アルファベット株、一時最高値更新 バークシャーの保

ワールド

チェコとスロバキアでビロード革命記念日、民主主義の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story