訪日動向から中国の景気を占う
中国の株価暴落後も「爆買い」は健在だった(今年8月、銀座) Issei Kato-REUTERS
前回のこのコラムで、中国の今年のGDP成長率は6.8%か6.9%と発表されるでしょう、と書きましたが、執筆後に発表された7-9月の成長率はやはり6.9%でした。年間の成長率の目標が7%ですから、額面通り受け取ればほぼ目標通りに進んでいると評価できる数字ですし、実際、これを発表した中国の国家統計局の担当者も「全体的に平穏な状況に変わりなく、平穏のなかで良い方へ向かっている」と解説しています。しかし、中国国外では同じ数字が「6年ぶりの7%割れ」などともっぱらネガティブに受け止められているのは、煎じ詰めれば、国外の人々はこの「6.9%」を額面通りには受け止めておらず、実態はもう少し厳しいとみているからでしょう。
たしかに2015年の1-9月の中国の輸入は前年同期に比べて15%も減少しており、中国向けに製品を輸出している企業にとっては決して「平穏」とはいいがたい現実があります。一方、国外からみれば中国経済が着実に成長していることを示唆する現実もあります。それは中国から外国に旅行する人が急増していることです。例えば2015年4-6月に中国の旅行社が海外へ送り出したツアーの参加客は1170万人で、前年同期に比べて37%も増えています。
ただ、今年4-6月と言えば、上海の株価が急騰していた時期ですから、株でもうかった人たちが浮かれて海外旅行へどしどし出かけたのかもしれません。だとすれば株価が急落した7月以降は海外旅行客が減る可能性もあります。もともと株に投資するような人は余裕資金をもっている人たちですから、株価下落で損した場合、彼らは衣食住にかかわる支出よりも、まずはブランド品や海外旅行など不要不急の支出を削るはずです。なので株バブル崩壊が中国の富裕層のサイフにどれぐらいの打撃を与えたかを見るうえでは、海外旅行客数の動向が大いに参考になるでしょう。
国民が着実に富裕化している表れ
実は中国からの訪日客数をみるかぎり、株が暴落した6月以降も、前年の同じ月の2倍ぐらいの数の人々が日本に来ています。2014年の段階では中国からの訪日客は241万人で、まだ台湾、韓国に次いで第3位だったのですが、2015年2月からは前年同月に比べて2倍以上となり、圧倒的に国別の第1位になっています。今年9月に上海で旅行社の人たちと会った時に、株価下落の影響から客足が鈍って日本ツアーがディスカウントされているという話を聞きました。そこで9月の訪日客数がどうなるか注目していたのですが、このほど観光庁が発表した数字によりますと、たしかに8月よりやや減ったとはいえ、前年同月比で2倍の49万人余りでした。この勢いが続けば、2015年は通年で500万人以上の中国人が日本に来ると予想されます。
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