コラム

ChatGPTはリサーチの助手として有能か? 犯罪学者が検証

2023年04月04日(火)08時50分

komiya230403_2.jpg

クラウドの視点「ワシの目」

筆者がこの視点をワシの目と呼ぶのは、インドの元大統領アブドル・カラムが語ったという「降雨時にはすべての鳥が雨宿りするが、ワシは雲の上を飛んで雨をしのぐ」との言葉に触発されたからだ。中を見ることも触ることもできないインターネットの世界は、その特性ゆえに、クラウド(雲)と呼ばれるが、クラウドの上を飛ぶワシには、ネットの地平線の彼方まで、眼光鋭く「情報」という獲物を追い続ける姿が重なる。

要するに、ワシの目があれば、サイバー空間でも、リアル空間における量的調査や質的調査と比べても遜色のないレベルで調査できるのだ。とりわけ、ワシの目が弱くても、「広く浅く」調べることはできるが、ワシの目が強ければ、「狭く深く」だけでなく、「広く深く」調べることも可能になる。

その典型が「オープンソース・リサーチ」という手法だ。「オープンソース・インベスティゲーション」とか「オープンソース・インテリジェンス」と呼ばれることもある。オープンソース(公開情報)であるウェブサイト、ブログ、掲示板、投稿サイト、レビューサイト、ネット論文、ネット報告書、電子書籍、ネット新聞、公開データベース、フォーラム動画、シンポジウム動画、配信インタビュー、配信講演会、Twitter、Facebook、LINE、YouTubeなどから断片的な情報をかき集め、それをジグソーパズルのごとくつなぎ合わせて完成品に組み立てる。その作業は「インフォメーションからインテリジェンスへ」というプロセスである。

従来のリサーチでは、図書館や書店を訪れ、インタビュイーと対面し、調査表を郵送し、現地に立つことが当然の前提だった。しかし、オープンソース・リサーチでは、そうした時間的・場所的な制約から解放される。それこそ、世界中の資料、世界中の人物、世界中の現場に容易にアクセスできるのだ。今後は、メタバースでの調査も視野に入れて、ワシの目を持つ調査者の育成が求められるだろう。実際、カリフォルニア大学、ケンブリッジ大学、アムステルダム大学など、世界各地で専門コースが開設されている。

◇ ◇ ◇


前置きが長くなったが、ChatGPTは「ワシの目」になり、オープンソース・リサーチをハイレベルで遂行できるのか、実際に試してみよう。なお、ChatGPTの回答は長いので、一部を抜粋した。


筆者:トイレで犯罪に遭わないために必要なことは何ですか?

ChatGPT:できるだけ人目につく場所でトイレを使用するようにしましょう。人通りが少ない場所や、暗い場所は避けるようにしましょう。

筆者:「人通りが少ない場所や、暗い場所は避けるようにしましょう」とありますが、そうした場所ほど、犯罪者が現れる確率は低いのではないですか?

ChatGPT:確かに、人通りが少ない場所や暗い場所は犯罪者が現れる可能性が低くなる場合があります。しかし、それでもトイレという限られた空間内で、犯罪者と遭遇した場合のリスクは存在します。また、人通りが少ない場所や暗い場所にいると、周囲の状況を確認しにくくなり、緊急時に助けを呼ぶことも難しくなります。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市首相「首脳外交の基礎固めになった」、外交日程終

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 9
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 10
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story