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「世界陸上断念の女子陸上セメンヤ選手はただの女性、レイプのような検査をやめて出場させてほしい」
DSDを持つ人=「第3の性別」というフレームワークが間違っている
――正しい概念で書かれた報道は皆無、といっていいのでしょうか。
これまで皆無と言ってもいいかもしれないです。
――間違った論調の1つは、「第3の性として見る」、ということでしょうか。
そうです。メディアがDSDの人を「第3の性別」、と見てしまうのです。考え方のフレームワーク自体も第3の性別で見てしまっていますので、変な表現になることが非常に多いのです。
国家レベルでもそういう風に見て間違っているところが実際にはあります。
――英語圏では、ジェンダーの面からセメンヤ問題がすごく大きく扱われていました。
LGBTムーブメントが広がっていくというのは、非常に大切なことなのですが、LGBTの皆さんのフレームワークでDSDを見てしまうと、「第3の性別というフレームワーク」で見るという、今みたいな報道のされ方が一般的になっていくという懸念があります。
――ネクスDSDジャパンがセメンヤ選手を支援するのは、なぜでしょうか。
セメンヤさんは、(国際陸連に)同意なく無理に検査をされたり、あるいは「お前は実は男性だった」という説明になったり。あるいは社会の誤解で、「両性具有なのだ」という見方をされてしまったり。彼女は一時、自殺予防センターに入っていたという話もありますね。
そういう体験自体が、DSDを持っている人たちの体験と非常に近いのです。多くのところで重なっていると。人ごととは思えません。
彼女自身の話をちゃんと丁寧にやっていくことで、DSDを持っている人たちの体験が伝わるとも思っているのです。
実は彼女のような体験をした人たちというのは、日本でもいます。
――スポーツの領域でしょうか。
スポーツにおいてもそうです。名前と具体的な体験についてはお話ができませんが、セメンヤ選手がいかに扱われたかを見て、諦めてしまっている人がいます。怖くなって、自分から身を引いている女性が、実際にいるんです。
また、本当に個人のプライベートな話であるにもかかわらず、ほぼ暴露という形で議論が行われていますよね。そういう話をしてもいいものなのだということを、皆さんが前提としています。他人の家の娘さんの生殖器の話をみんながやってしまっている、と。
今の社会状況の中では、これが当たり前のように思っても仕方ないのだろうとは思いますが、当事者家族の実際の体験としては、とても考えられないようなことをしてしまっています。
そういう報道をされること自体が、すごく辛いのです。
日本人女性初のオリンピックメダリスト、人見絹枝さん
――セメンヤ選手とその周囲にとって、何が最善なのでしょう。このまま、女性であるということで進んで、他の女性選手の意識を変える方向でいく、ということでいいのでしょうか。
こちらの希望としては、やはり、無理矢理な性別検査のようなことは無しにしていただきたいと思っています。
セメンヤさんや、思春期前後に判明するDSDを持っている女性というのは、本当にただの女性です。誰とも変わらない女性なので、暴き立てることを一切せずに、女性競技にそのまま参加させてもらいたいというのが、こちらの願いです。
――セメンヤ問題をきっかけに、男性選手の中に競技に有利になるような身体的特徴を持った人についてはどうなのか、という声が英メディアで紹介されています。セメンヤ選手が有色人種であることも影響しているのではないか、と。つまり、女性や白人の男性じゃない人々に対する厳しい視線や偏見があるのではないか、という主張です。
こちらの印象としては、昔よりも、状況が強迫的になっている感じもします。
NHKの「いだてん」というドラマで、人見絹枝さん(1907-1931年)という日本初の女性オリンピックメダリストが取り上げられました。
調べてみると、彼女も「女じゃない」とか、「化け物」とか、「おとこおんな」とか、結構あの時代から言われていました。女性だけが、速く走ると、なぜか「女じゃない」と言われてしまうのです。でも無理やり検査をしろという話にまでならなかった。とてもおおらかだったと思います。今はとても強迫的になっている。
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