コラム

これでは日本は国際的サプライチェーンから「外される」...不十分な脱炭素政策に、企業などで強まる危機感

2024年01月05日(金)16時22分

第7次エネルギー基本計画が24年にも策定される。高瀬氏は「政府関係者にはこれまでの策定プロセスを見直し、基本政策分科会のメンバー選考を見える化することを求めたい。政府は“伝統的な声”に耳を傾け過ぎだ。ソニーやAGC(旧旭硝子)のような企業や気候イニシアティブに代表される新しい時代の声を聞くべきだ」と訴える。

ニッセイアセットマネジメントの大関洋社長は「私たちの株式ポートフォリオを見ると、わずか10%の企業が温室効果ガスの90%を排出している。10%の企業から投資を引き揚げれば90%の排出量を削減できる。これは容易な方法だが、全体としては排出削減につながらない」と語る。

大関社長によるとソニーや資生堂はネットゼロ(実質排出ゼロ)の目標を実現しているものの日本では多数派ではない。同社のポートフォリオで排出量の70%を占める世界の70社のうち43社が日本の企業。このうちネットゼロへの明確な戦略を立てているのはわずか3社だ。「なぜかと言えば、インセンティブを欠いているからだ」と解説する。

「欧州では再エネが普及しており、それを活用すれば対応できる。しかし日本では再エネの割合が極めて低い。そうした環境下でネットゼロを考えるのは難しい。政府が再エネのアクセルを踏まないと日本企業も立ち行かなくなる。米国企業も炭素税などの負担がかかれば、高排出の企業との取引を削らないと、重い負荷が財政にかかることになる」

「日本企業に世界からどうして(再エネに転換)できないのですかという圧力もかかってくる。グローバルにビシネスを展開する企業は政府に動いてもらわないと困るから仕方なく声を上げているのが実情だ」と大関社長は打ち明けた。気候イニシアティブは「25年を目処に実効性の高いカーボンプライシング制度を導入すべきだ」と提言している。

【気候イニシアティブが求める6原則】

(1)30年削減目標達成に向け25年を目処に実効性の高いカーボンプライシング制度を導入

(2)公平性担保のため一定の要件を満たす企業を一律に制度の対象に

(3)世界に比肩する水準で将来の炭素価格を明示(例えば30年130ドル/二酸化炭素トン)

(4)EUの炭素国境調整メカニズムなどの対象とならないよう国際的なルールに適合した制度に

(5)公正な評価のもと排出削減が困難な中小企業などをカーボンプライシング制度の収入で支援

(6)カーボンプライシングの立案・評価・更新の透明性を確保

ニューズウィーク日本版 ガザの叫びを聞け
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月2日号(11月26日発売)は「ガザの叫びを聞け」特集。「天井なき監獄」を生きる若者たちがつづった10年の記録[PLUS]強硬中国のトリセツ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国務長官、NATO会議欠席へ ウ和平交渉重大局面

ビジネス

米国株式市場=5営業日続伸、感謝祭明けで薄商い

ワールド

エアバス、A320系6000機のソフト改修指示 運

ワールド

感謝祭当日オンライン売上高約64億ドル、AI活用急
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 6
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story