コラム

女子選手の唇にキス、王妃の肩を抱き、卑猥なポーズも...スペインサッカー連盟会長への怒りと、「逆ギレ」の行方

2023年08月26日(土)19時07分
スペインサッカー連盟のルイス・ルビアレス会長

スペインサッカー連盟のルイス・ルビアレス会長(8月20日) Hannah Mckay-Reuters

<女子W杯の初優勝に水を差すスペインサッカー連盟ルビアレス会長の「キス・ゲート」。燃え上がる「#MeToo」の怒りが示す問題の根深さ>

[ロンドン発]圧倒的な才能と選手層の厚さでイングランド代表を1-0で破り、サッカー女子ワールドカップ(W杯)初優勝を果たしたスペイン代表が同国版「#MeToo」を主導している。スペインサッカー連盟のルイス・ルビアレス会長が表彰式でFWジェニファー・エルモソ選手の唇に強引にキスをしたこと(キス・ゲート)に対し辞任を求めて立ち上がった。

■【動画】強制キスだけじゃない...女王の肩を抱き、卑猥なポーズをし、やりたい放題のルビアレス会長

ルビアレス会長はスペインのレティシア王妃(元ジャーナリスト)と16歳の娘ソフィア王女の数メートル隣で決勝戦を観戦していた際、興奮して股間を鷲掴みにする姿をTVカメラに撮られていた。会長はレティシア王妃の肩を抱いたり、試合終了後、ピッチ上でFWアテネア・デルカスティージョ選手を肩に担ぎ上げたり。まさに「セクハラ大魔王」そのものだ。

筆者はセクハラやジェンダーに厳しい「ピューリタニズム(清教主義)国家」英国で暮らしているので、ラテン系でカトリックが多いスペインの基準は分からない。男女格差の現状を評価した世界経済フォーラムの「世界男女格差報告書」2023年版によると、男女格差が少ないのはドイツ6位、英国15位、スペイン18位、フランス40位、イタリア79位だ。

17世紀、イングランドでは合理主義から禁欲や勤勉を説くピューリタニズムは女性の精神性とコミュニティーにおける従来の役割に深く影響した。精神の平等を強調するピューリタニズムと相互に作用しながらジェンダー意識が覚醒したと言われる(ダイアン・ウィレン著『近世イングランドの神々しい女性たち ピューリタニズムとジェンダー』より)。

スポーツブラのパフォーマンス

そのイングランド女子代表が昨年のUEFA欧州選手権で初優勝した時、優勝ゴールを決めたクロエ・ケリー選手はユニフォームを脱いで頭の周りで振り回し、スポーツブラを見せてイエローカードを受けた。しかしケリー選手のパフォーマンスは世界中の女性を団結させ、自己主張するパワーを与えたと称賛された。

女子選手のプレーレベルが飛躍的に向上したことを今大会は印象付けた。女子W杯は純粋なスポーツイベントだが、女子選手を取り巻く男女格差の厳しい現実を見た時、女性の地位向上を世界にアピールする「女性のためのプロジェクト」でもある。イングランド代表MFジョージア・スタンウェイ選手の年収はわずか3万4000ポンド(626万円)に過ぎない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

仏大統領が訪中へ、脅威に対処しつつ技術へのアクセス

ワールド

アングル:トランプ政権のAIインフラ振興施策、岩盤

ビジネス

中国万科の債券価格が下落、1年間の償還猶予要請報道

ビジネス

午前の日経平均は反発、大幅安の反動 ハイテク株の一
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 9
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story