コラム

ウクライナを広島になぞらえたゼレンスキー...戦争と核の悪夢を未来に残さないための重い問いかけ

2023年05月23日(火)18時56分

オクサナ・カドゥン副村長は「戦争初日、住民は絶望の淵に立たされ、何をすべきか分かりませんでした。良心、道徳、人間性が浸透していれば、その社会は人間的なのです。チョルノービリの悲劇や戦争のような出来事は社会を結晶化させます。『腐っている人間』と『良心のある人間』が明らかになります。そこから逃れることはできません」と振り返る。

ある女性はチョルノービリがロシア軍に占領された時、働いていたが、すぐに着替えてロシア軍の車に乗り込んだ。イバンキフ村には運動器系に障害を抱える住民が4000人近くいる。成人100人以上、子ども12人以上が車いすを利用している。占領により自由に外を出歩けなくなった住民の健康に悪影響が出た。

「住民は経済的、財産的に多くのものを失い、高額な車いすを購入するのは難しくなりました。車いすがないと住民は自分の家に閉じこもってしまい、あらゆるコミュニケーションが途絶えてしまいます。だから日本からの車いすの寄贈は心強い助けになり、私たちにとっても大きな安心材料になります」とネステレンコ所長は言う。

「すべての人が新鮮な空気を吸えるよう、車いすが必要」

介護施設の責任者ミハイル・ベレノク氏(67)は「入居者の中には移動が困難な人や寝たきりの人もいます。骨にストロンチウムやセシウムが蓄積することで、筋骨格系に問題が生じています。すべての人が新鮮な空気を吸えるようにしたいので車いすが必要です。日本から車いすが届き、助かります」と語る。

230523kmr_03.jpg

イバンキフ村の介護施設責任者ミハイル・ベレノク氏(筆者撮影)

ウクライナの慈善団体「フューチャー・フォー・ウクライナ(FFU)」のオレナ・ニコライエンコ戦略・開発責任者は「敵の侵攻と絶え間ない砲撃により、自立して動くことができない被災者の数は日に日に増えています。医療が追いつかず健康を損ない、車いすの助けを必要とする高齢者の数も急増しています」と語る。

5月末には第3便215台が東京港を出港。ウクライナ北東部ハルキウの児童養護施設に届けられる。FFU医療支援担当カリーナ・カピタニウクさんは「ハルキウ州、オデーサ州、ジトーミル州、ザカルパッチャ州、リウネ州、キーウ州の6州から車いす提供の依頼が来ています。第3便までの500台に加えてさらに500台、計1000台が必要です」と訴えている。

筆者と妻はFFUからのSOSを受け、オールジャパンでウクライナに車いすを届けるプロジェクト「Japan Wheelchair Project for Ukraine」に関わっている。事業規模が当初の500台から1000台に倍増したことで資金調達が焦眉の課題になってきた。寄付はこちらから

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:マスク氏の新党構想、二大政党制の打破には長く

ビジネス

6月工作機械受注は前年比0.5%減=工作機械工業会

ワールド

解任後に自殺のロシア前運輸相、横領疑惑で捜査対象に

ビジネス

日産、米国でのEV生産計画を延期 税額控除廃止で計
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワールドの大統領人形が遂に「作り直し」に、比較写真にSNS爆笑
  • 4
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 7
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 8
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 9
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 8
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 9
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story