コラム

ミャンマー軍の兵器製造に、日本企業の精密機械...北朝鮮など制裁対象国の「抜け道」とは

2023年01月17日(火)19時01分

朝鮮問題に詳しい米ジョージタウン大学のビクター・チャ教授は(1)厳しい経済的苦境に直面した時の金体制の復元力は予想以上に強固(2)コロナによる封鎖で北朝鮮の貿易の9割を占める中朝貿易が9割も減少したのに北朝鮮の核・ミサイル開発はスローダウンしなかった(3)核強国建設のため人民に高い犠牲を強いることを厭わない――と分析する。

北朝鮮はミサイル開発のサプライチェーンをほぼ自前で構築している。西側の制裁が本当に効いていれば、核・ミサイル開発にもブレーキがかかっていたはずだ。しかし金氏はロシアのウクライナ侵攻に便乗して逆にアクセルを踏み込んだ。西側はウクライナ支援に四苦八苦で、北朝鮮にまで手が回らないと読んだのは間違いない。

分断する世界と「悪の枢軸」

ウクライナ戦争が生んだ西側と権威主義国の分断が、孤立する北朝鮮やミャンマー、イランに有利に働いている。イランのカミカゼ・ドローン(自爆型無人航空機)がロシア軍によるウクライナへのエネルギーインフラ攻撃に使われ、北朝鮮はロシアの民間軍事会社ワグネルに歩兵用ロケット砲やミサイルを売却した。恐るべき「悪の枢軸」が構築されつつある。

SAC-Mの報告書は「1990年代以降、外国政府によるミャンマー国軍への兵器禁輸や制裁措置が相次いでとられた。しかし、いくつかの国連加盟国がミャンマー国軍に兵器を売り続け、ミャンマー国軍も国内で兵器を製造できる。兵器製造の強化や近代化に多大な投資をしてきたミャンマー国軍は外部からの供給に頼り続けている」と指摘する。

50年代に西ドイツとイタリアの技術支援を受けてつくられたミャンマー国軍国防産業総局の軍需工場で兵器製造に使われる工作機械や部品のメーカーや、取引を仲介するミャンマー武装勢力の民間フロント企業をSAC-Mは地道な調査で特定した。ミャンマー国軍は中国から大量の原材料を輸入し、シンガポールは戦略的中継拠点として機能していた。

ミャンマー国軍国防産業総局は中国最大の国有兵器輸出企業、中国北方工業公司を通じて中国から大量の原材料を輸入している。また、鉄鋼工場や銅鉱山など、ミャンマー国軍の武器製造を支える補助産業を近代化する上でも、中国は重要な役割を担ってきた。しかし、中国製品の品質が低いため、インドなど他国に頼る傾向が目立ち始めているという。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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