コラム

環境対策で中国に並ぶ「悪役」だったインド、なぜ一躍ヒーローに? 日本とここが違う

2022年11月19日(土)16時41分

30年までに国内総生産(GDP)の排出原単位を05年比で45%削減し、非化石燃料ベースの累積電力設備容量を全体の約50%まで引き上げる方針だ。インドのブペンダー・ヤダフ環境相はCOP27のサイドイベントで「世界全体の1人当たり排出量がインドと同じレベルであれば、気候危機は存在しない」と述べた。

インドの戦略は次の4つの前提をもとに策定されている。(1)世界人口の6分の1を擁しながら温室効果ガスをさほど出していない(2)開発のために大きなエネルギー需要がある(3)開発のために低炭素戦略を追求することを公約にしている(4)気候変動に対する回復力を高める必要がある。

国連の排出量ギャップ22年報告書によると、国民1人当たりの温室効果ガス排出量は二酸化炭素換算で米国が14トン、ロシア13トン、中国9.7トン、ブラジルとインドネシアが7.5トン、EU全体で7.2トンだ。これに対してインドはわずか2.4トン。米国のわずか約6分の1だ。

「アジア・ゼロエミッション共同体」構想を掲げた日本だが...

「自立したインド」を掲げるナレンドラ・モディ首相は再生可能エネルギーの拡大と送電網の強化、原子力の役割拡大、再生可能エネルギーでつくる「グリーン水素」、燃料電池、バイオ燃料など将来技術の研究開発への支援強化、エネルギー効率の改善、低炭素開発への重点的移行を進めている。

西村明宏環境相はCOP27閣僚級セッションで「アジアの有志国からなるプラットフォームを構築し、省エネ、再エネ、水素、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS )などの有効活用により『アジア・ゼロエミッション共同体』構想の実現を目指す」と表明。しかし水素やアンモニアの混焼、CCUSで化石燃料を延命させようとしていると環境団体から批判される。

221119kmr_cij01.JPG

COP27閣僚級セッションで演説する西村明宏環境相(筆者撮影)

日本は温室効果ガス排出量で45位(インド9位)、再生可能エネルギーで48位(同24位)、エネルギー使用量で33位(同9位)、気候政策で55位(同8位)とすべての面で遅れている。背景には11年の東日本大震災の福島原発事故で原発が停止し、液化天然ガス(LNG)、石炭、石油などへの依存度が電源構成で76%程度まで高まったことがある。

国際環境団体オイル・チェンジ・インターナショナルの報告書「日本の汚い秘密」は(1)日本は化石燃料事業に対する世界最大の公的支援国であり、19~21年に年平均106億ドル(約1兆4800億円)を提供(2)日本は世界最大のガス事業支援国でもあり、平均で年間67億ドル(約9380億円)を投じている──と指摘している。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

香港の大規模住宅火災、ほぼ鎮圧 依然多くの不明者

ビジネス

英財務相、増税巡る批判に反論 野党は福祉支出拡大を

ビジネス

中国の安踏体育と李寧、プーマ買収検討 合意困難か=

ビジネス

ユーロ圏10月銀行融資、企業向けは伸び横ばい 家計
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story