コラム

戦闘で勝ち目なしと悟ったプーチンが頼る「冬将軍」...エネルギー施設攻撃の姑息な狙い

2022年11月04日(金)17時35分

サハルク氏によると、東部に位置する発電所はミサイル8発で 同時に攻撃され、西部の発電所は1回の攻撃で4発のミサイルを撃ち込まれた。DTEKはウクライナ地域で6基の火力発電所を運転しているが、6基のうち5基が攻撃された。発電容量の30~40%、変電所の50%が被害を受けている。修理しては攻撃を受けるパターンが繰り返されている。

最も重要なのは対ミサイル、対ドローンの防御手段を確保することだ。こうしたシステムがなければ、いくら修理してもすぐに攻撃されて時間の無駄になる。第二に変圧器、サーキットブレーカー、ケーブルなど修理に使うスペアパーツや機器も不足している。変圧器は注文してから届くまでに1年~1年半ぐらいかかるという。

「天然ガスについてはほぼ大丈夫だと思う。現在、地下貯蔵されている天然ガスは例年より多くなっている。戦争のため消費量も落ちた。一方、天然ガスより安価な石炭は真冬には不足することが予想される。おそらく11月から12月にかけて石炭の輸入が必要になる」。サハルク氏が心配するのは「電気」より「暖房」だ。

軍事専門家「ロシアは西側の国民に国内でお金を使うよう誘導」

ロシア軍が熱電併給システムへの攻撃を続ければ大都市で大きな問題を引き起こす。厳しい冬、電気や水なしでアパートに留まることができても、暖房なしに滞在することはできない。人道的な大惨事になる恐れがある。ウクライナ当局はスタジアムやスポーツ施設、病院や学校などで人々に暖を提供する集中暖房施設を作る必要があるとサハルク氏は提言する。

英シンクタンク「英王立防衛安全保障研究所」(RUSI)のジャック・ワトリング上級研究員は「エネルギーインフラを標的にすることでウクライナの経済的な米欧依存度は高まる一方、欧州のエネルギー不足は悪化し、ウクライナの支援国も経済的に困窮することが予想される。ロシアは西側の国民にウクライナより国内でお金を使うよう誘導するだろう」と指摘する。

221104kmr_wru03.jpg

RUSIのジャック・ワトリング上級研究員(筆者撮影)

「ロシアは自軍の地上部隊の弱点を認識した上で、ウクライナの支援国がキーウに停戦交渉のテーブルにつくことを促すよう揺さぶっている。これは戦争がもたらす経済的影響、戦争の長期化、核のエスカレーションの危険性などを強調するメッセージを織り交ぜて行われている」とワトリング氏はRUSIサイトへの投稿で解説している。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

赤沢経済再生相、米商務長官と電話協議 米関税引き上

ワールド

米、ウクライナに防衛兵器追加供与へ トランプ氏「自

ワールド

豪中銀、利下げ予想に反して金利据え置き 物価動向さ

ワールド

中国、米の関税再引き上げをけん制 供給網巡り他国に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story