コラム

戦闘で勝ち目なしと悟ったプーチンが頼る「冬将軍」...エネルギー施設攻撃の姑息な狙い

2022年11月04日(金)17時35分

221104kmr_wru02.jpg

英ICISのオーラ・サバドゥス博士(筆者撮影)

「ガス価格の下落と大きな貯蔵能力が軍事的なリスクを乗り越えるインセンティブをウクライナに与えている。しかし状況は非常に複雑だ。ウクライナのエネルギー企業はこれまでにない厳しい冬を迎えている。欧州へのロシア産天然ガスのパイプライン通過料などの収入が減少し、気温が下がる中、インフラを修理し、照明や暖房をつけ続けなければならない」

露エネルギー専門家がロシア軍に助言か

ウクライナ最大のエネルギー会社DTEKのエグゼクティブ・ディレクター、ドミトロ・サハルク氏はサバドゥス博士のポッドキャストでウクライナの状況について「2月に侵攻が始まって以来、前線から遠く離れた重要なインフラへの攻撃はそれほどなかった。ロシア軍は主に前線のすぐ近くの変電所や配電線、発電施設などを集中的に攻撃していた」と説明する。

4月にロシア軍が首都陥落を諦めてキーウから撤退。9月には北東部ハルキウがロシア軍の占領から解放された。これを受け、地域の電力供給会社は家庭や企業へのエネルギー供給をほぼ復旧させた。キーウの配電網を運営するDTEKは5月に、 損傷した変電所、配電線をすべて復旧し、 電気のない生活を強いられていた15万人以上に電力供給を再開した。

「10月に入ってからの主な違いはロシア軍が発電施設や高圧線を攻撃し始めたことだ。こうした施設はウクライナ西部など、前線からかなり離れたところにある。インフラ攻撃は注意深く、入念に計画されている。ロシアのエネルギー専門家がロシア軍に助言したのは明らかだ。なぜなら彼らはエネルギーシステムの重要な部分を攻撃しているからだ」(サハルク氏)

エネルギーインフラ攻撃には2つの目的がある。一つは火力発電所を破壊したり損傷させたりして発電量や発電能力を損ねること。もう一つは電力供給会社が発電された地域から必要とされる地域へ電力を自由に移動させることができないようにすることや、その能力を低下させることにある。

重要なのは対ミサイル、対ドローンの防御手段

「ロシア軍は統合されたウクライナのエネルギーシステムを分割しようとしている。そうすると発電能力が不足している地域や発電能力がない地域に電力を供給することができなくなる。その目標を達成するために誘導ミサイルやイランのカミカゼドローンを利用している」(サハルク氏)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、6000件減の21.6万件 7

ワールド

中国、日本渡航に再警告 「侮辱や暴行で複数の負傷報

ワールド

米ロ高官のウ和平案協議の内容漏えいか、ロシア「交渉

ワールド

サルコジ元大統領の有罪確定、仏最高裁 選挙資金違法
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 5
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 10
    「世界の砂浜の半分」が今世紀末までに消える...ビー…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 6
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 7
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story