コラム

中国には制裁もHIMARSも効かぬ? 台湾有事に向け、デジタル人民元が抜け穴に

2022年10月12日(水)17時15分

中国依存度が高くなれば抑止力は働かなくなる

フレミング氏は「ウクライナの戦場とサイバースペースでの勇気ある行動が流れを変えつつあることは明らかだ。10年以上に及ぶ英国と同盟国のサイバーテクノロジーと先進機器への投資と作戦遂行のための情報共有の意志が大きな役割を果たした」とテクノロジーがウクライナ戦争で果たした重要性を改めて強調した。

「ロシアの兵員、装備の代償はとんでもなく大きい。われわれも現場のロシア軍司令官も知っているが、物資と弾薬が枯渇している。ロシア軍の部隊は疲弊している。服役囚を援軍として使い、今では何万人もの経験のない徴集兵を動員していることはロシアが本当に絶望的な状況であることを物語っている」

「ウクライナの戦況はロシアのプロパガンダが垂れ流す必然的な勝利とは程遠い。ウラジーミル・プーチン露大統領は内部での有効な批判がほとんどないため、意思決定に重大な欠陥がある。クリミア大橋爆破への報復としてのキーウ攻撃を見ても戦略的な判断ミスを招くような高いリスクと取っている」という。これが中露のような権威主義国家の落とし穴だ。

ロシアはウクライナに侵攻し、第二次大戦後の安全保障システムを崩壊させたが、長期的な脅威は間違いなく中国だ。対ロシア経済制裁という西側の抑止力が効かなかったのは、欧州が生命線の原油・天然ガスをロシアに依存していたからだ。高速通信規格5Gなど先端技術で西側の中国依存度が高くなるほど、台湾や南シナ海、東シナ海での抑止力は働かなくなる。

フレミング氏は「中国は自国民の潜在能力を引き出し、支援する方法より、中国国民をコントロールする機会を見出そうとする。その根底には恐怖心がある。自国民、言論の自由、自由貿易、オープンな技術標準、同盟関係、オープンな民主主義秩序と国際ルールベースに対する恐怖心だ。中国は国際安全保障のルールを書き換えるつもりなのだ」と指摘する。

「中国は市場や影響圏にある人々、自国民を支配する道具とテクノロジーをみなしている。同じ志を持つ同盟国の集団的行動がなければ、われわれとはかけ離れた中国の価値観がテクノロジーによって輸出されることになる」とフレミング氏は表情を引き締めた。

まず、北京のハイテク政策がもたらすリスクと脅威を理解することだとフレミング氏は指摘する。第二に技術を守り、次世代の国際標準を実現する。最後に、優位性を維持しなければならない技術に重点的に投資することだという。日米欧は協力して中国に負けないテクノロジーのバリューチェーンを構築することが不可欠だ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 9
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 10
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story