コラム

中国には制裁もHIMARSも効かぬ? 台湾有事に向け、デジタル人民元が抜け穴に

2022年10月12日(水)17時15分

19年7月、中国人民銀行の王信研究局長は中国国内で開かれた学会でデジタル人民元発行の研究を承認したことを初めて公にした。20年4月には実証実験が深セン市など4都市で実施されることが明らかにされ、同年10月にはデジタル人民元発行に向けた法整備として人民銀行法改正法案が公表された。

中国が世界に先駆けてデジタル通貨に取り組む背景として、日本の財務省の藤田豊氏は「デジタル人民元」というコラム(昨年2月)の中で(1)中国ではデジタルトランスフォーメーションが急速に進んでいる(2)マネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金供与、脱税、汚職防止など資金の流れを把握する必要がある(3)人民元の国際化──を指摘している。
今年、米アップルの「iPhone」に搭載されるオペレーティング・システム「iOS」やグーグルの「Android(アンドロイド)」向けデジタル人民元アプリのベータ版も登場。9月にはデジタル人民元の試行プログラムを広東、四川、河北、江蘇4省全域に拡大することが発表された。しかし同時に利用者の取引を監視できるようになるとの懸念が指摘されている。

最新鋭の衛星能力を構築

そもそも非中央集権的で政府や中央銀行から自由なはずのデジタル通貨は中国では中央集権的な人民支配のツールとして使われる。さらに「将来的には中国が現在ロシアのプーチン政権に適用されているような国際的な制裁を部分的に回避することも可能になるかもしれない。中国共産党はこの紛争から教訓を学んでいることは間違いないだろう」(フレミング氏)

中国がデジタル人民元を国際化すれば制裁を回避でき、西側が制裁をテコに中国の台湾侵攻を抑止できるか、重大な疑念が生じる。

北京は現在のGPS(全地球測位システム)を脅かすような最新鋭の衛星システムを構築している。「支配のための恐怖と欲望が宇宙のような新しい領域にどのように影響するかをも目の当たりにしている」(フレミング氏)。中国は北斗衛星測位システム(18年12月、サービス開始)を通じて航空機、潜水艦、ミサイルなどにもナビゲーションを提供している。

中国国民や企業に採用させ、世界120カ国以上への中国製輸出品に組み込ませるため、中国共産党はあらゆる手段を講じている。北斗衛星測位システムを使えば世界中の個人を追跡できるようになるのだ。

ウクライナではGPS誘導弾とM142 高機動ロケット砲システム(HIMARS)、多連装ロケットシステム(MLRS)の連携が戦争の流れを変えた。中国は衛星を破壊する強力な対衛星能力も構築している。衛星が戦場だけでなく、配車、出前サービスなど日常生活にいかに重要かを考えると将来の戦争は宇宙で決まると言っても過言ではない。

ウクライナ軍は敵の位置を正確に把握するため、通常の商業衛星データ(1日2回撮影)やさまざまなドローン(無人航空機)を使用しているとみられている。ロシア軍はウクライナ軍が使用できる商業衛星データにアクセスできない。ロシア軍の軍事衛星は数週間に一度しか宇宙から撮影できない。さらに経済制裁で衛星用の西側製先端部品が使えなくなった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

EU、VWの中国生産EV向け関税撤廃を検討

ワールド

米、AUKUS審査完了 「強化する領域」特定と発表

ビジネス

ネトフリ、米ワーナー買収入札で最高額提示=関係筋

ビジネス

孫会長ら、ソフトバンクグループ株の保有比率34.7
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 8
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 9
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 10
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story