コラム

砲撃戦で逆転したウクライナ 「ブラック・ホーネット」で領土奪還の市街戦に前進か

2022年08月26日(金)20時45分

大砲や戦車の能力ではウクライナに対し圧倒的な優位を確保していたはずのロシアがここまで苦戦を強いられている理由はなぜか。ウクライナ軍の死傷者が4万人とみられる一方で、ロシア軍の死傷はその倍の8万人とされる。ウクライナ軍が「領土」を犠牲にしてロシア軍を市街戦に誘い込んで叩く縦深防御、すなわち肉を切らせて骨を断つ戦略をとったからだ。

ロシア軍占領地域で進む「軍事的空洞化」

英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)によると、ロシア軍は戦車2800両と装甲車1万3000両を配備するとともに、戦車1万両と装甲車8500両を備蓄している。ウクライナ軍発表ではロシア軍はすでに戦車1936両と装甲車4251両を失った。市街戦では建造物やバリケードが障害になり動きが鈍った戦車や装甲車が狙い撃ちされやすいことを浮き彫りにした。

市街戦では待ち伏せできる防御側が有利になる。兵員のさらなる損傷を回避するため、ロシア軍、ウクライナ軍双方とも大規模な地上作戦は控え、戦況は表面上、膠着状態に陥ったように見える。しかしロシア軍はこれまで安全に前線に兵員や武器・弾薬、食料、水を補給する兵站を担ってきたクリミア半島の拠点まで攻撃され、パニックに陥ったとされる。

精密誘導弾による空爆に匹敵する破壊力を持つM142高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」(射程80キロメートル)16両やM270 MLRS(同)12両の供与を米欧から受けるウクライナ軍は不利だった砲撃戦の流れを逆転させた。遠方からの精密砲撃で弾薬庫、指揮統制拠点、橋梁を次々と破壊されたロシア軍占領地域では「軍事的空洞化」が進む。

今回のウクライナ戦争は完全にドローンの戦いになった。正確な射弾観測にはドローンが欠かせず、レーダーなどの攻撃にも徘徊型兵器の「神風ドローン」が使われる。ウクライナ軍がロシア軍に占領された領土を奪還するには大規模な地上作戦を展開する必要がある。「ブラック・ホーネット」の供与はその日がいつか訪れることを予感させる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NEC委員長、雇用の伸び鈍化見込む 人口減と生産性

ワールド

中国BYD、米政府に関税払い戻し求め提訴 昨年4月

ワールド

EU、第三国の港も対象に 対ロ制裁20弾=提案文書

ビジネス

ECB現行政策「適切」、インフレ率は目標に収束へ=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業績が良くても人気が伸びないエンタメ株の事情とは
  • 4
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 5
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 8
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 9
    【銘柄】なぜ?「サイゼリヤ」の株価が上場来高値...…
  • 10
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story