コラム

英元外交官が語る安倍氏のレガシー 「日本は彼のビジョンを前向きに引き継ぐべき」

2022年07月26日(火)18時27分

──アジアの中でも中国と韓国では歴史観や靖国神社参拝を巡って安倍元首相に対する反感は根強い。

ヘンダーソン 東アジアの情勢に影響を与える多くの歴史があり、それが負の勢力に利用されている。その点、安倍元首相が時に対立や二極化を招く存在であったことは疑いようがない。ナショナリストという安倍元首相に貼られたレッテルはそれが事実かどうかは別として、この地域の負の遺産になると感じる人たちがたくさんいた。

特に韓国に関してはそのような要素があると思う。しかし中国がロシアや北朝鮮と連携して攻勢を強めることにどう協力して対応していくのかを考えるべき時が来た。韓国が自由で開かれたインド太平洋という戦略概念に何か問題を抱えているわけではない。

インド太平洋へのバイデン氏の取り組みを通じて、日本が韓国との関係を修復し、歴史的な問題を抱える他のパートナーとの関係を効果的に再編成するための道筋が見えると信じている。地政学の未来に目を向けなければならない今、後ろ向きのままでは未来に向かって歩いていけない。

──日本は東アジア、特に韓国におけるネガティブな反応を克服できると思うか。

ヘンダーソン できると信じている。日本の重要な役割は安倍元首相のビジョンを前向きに引き継ぐことだ。歴史ではなく、私たちが直面している脅威に対して自由主義的な秩序を強化することだ。インド太平洋もクアッドも日本がナショナリストとして主導するプロセスではない。統合された多国間の国際的アプローチだ。

現実的に日本は韓国にとって何の脅威にもなっていない。韓国がさらされている脅威は中国、北朝鮮、ロシアであり、自由で開かれたインド太平洋は安全な基盤を提供する。インド太平洋で具現化される安倍元首相とアメリカのビジョンに基づき、未来を見る必要がある。

──安倍元首相が残したインド太平洋を支持する理由は。

ヘンダーソン この地域と世界に欠けていたのは、中国は基本的に多国間の関係に対応できていないという認識だった。中国は多国間の枠組みを構築するものの、それを2国間で使っている。中国は国際関係を全く理解していない。一帯一路の中で個々の国家を弱め、支配する。そして個々の国家を被保護国としてプレイブックに加える。

最近、南太平洋で同じことが起きた。役に立たない多国間の典型例だ。中東欧諸国と中国の17+1コンセプトにも同じことが言える。中国は多国間の中で役割を果たすことができないことを露呈した。

私たちに必要なのは真に統一されたコンセプトだ。環太平洋経済連携協定(TPP)は残念ながらドナルド・トランプ前米大統領によって損なわれたが、より機能するアプローチとしてクアッドやインド太平洋がある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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