コラム

「渡航禁止の解除を」WHO勧告を無視する日本とオミクロン株をまん延させたイギリスの違い

2022年01月21日(金)20時43分
岸田首相

ワクチンの手配が遅れ、水際対策に頼るしかない岸田首相(2021年12月21日) Yoshikazu Tsuno/REUTERS

[ロンドン発]世界保健機関(WHO)の新型コロナウイルス緊急委員会は19日、感染力が極めて強くワクチンによる免疫を回避するオミクロン株が世界中で大流行する中「国際的な渡航禁止措置に付加的な効果はなく、加盟国の経済的・社会的ストレスの原因となり続けている」と解除または緩和を勧告した。

「オミクロン株が報告された後に(南アフリカなどを対象に)導入された渡航制限で国際的な感染拡大を抑えることができなかったことは渡航制限が時間の経過とともに効果を失っていくことを示している。さらに、新たに発生した『懸念すべき変異株(VOC)』に関する透明性のある迅速な報告を阻害する恐れもある」との懸念も示した。

渡航の際のマスク着用や検査、隔離・検疫、ワクチン接種などの措置について「国際保健規則のリスク評価に基づいて行われるべきで、海外旅行者に経済的負担をかけることは避けなければならない。途上国ではワクチンへのアクセスが限られていることを考慮すると、渡航を許可する唯一の条件として接種証明を要求してはならない」と釘を刺した。

G7で最も厳格な水際対策を続ける岸田首相

これに対して、木原誠二官房副長官は20日の記者会見で「オミクロン株には慎重にも慎重に対応すべきだ。先進7カ国(G7)の中で最も厳しい水際対策を講じて流入を最小限に抑えつつ、国内感染の増大に備える時間を確保している。国内外における感染状況には引き続き大きな差があり、2月末まで水際対策の骨格を維持する」と説明した。

その際「人道上、国益上の観点から必要な対応は取りたい」と述べた。現時点で日本に帰国・入国する人は出国前72時間以内に受けた検査結果の証明が必要で、入国後10~14日間は宿泊施設や自宅で待機、公共交通機関も使用できない。外国人の新規入国は停止されている。濃厚接触者は自治体の確保する宿泊施設で待機を求められる場合もある。

日本の1日当たり新規感染者数はこれまでのピークの1.8倍近い4万6016人に達し、入院治療等を要する者はピーク並みの21万6960人。一方、重症者はピークの5分の1以下の404人だ。安倍、菅両政権が崩壊した経緯を見ると岸田文雄首相が慎重になるのも無理はない。21日、日本政府は16都県にまん延防止等重点措置を拡大した。

17万5千人超という欧州最悪の死者を出したイギリスはワクチンの3回目接種が12歳以上の64%近くに達したこともあり「ワクチンや自然感染による免疫を持つ人口割合が高く、世界で最もパンデミックの出口に近い」(ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のデービッド・ヘイマン教授)とされる。抗体保有率は実に全人口の96~97%にのぼる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア・ガスプロム、26年の中核利益は7%増の38

ワールド

英、農業相続税の非課税枠引き上げ 業界反発受け修正

ワールド

メキシコCPI、12月前半は+3.72%に鈍化 年

ビジネス

金現物、4500ドル初めて突破 銀・プラチナも最高
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story