コラム

再びウクライナ侵攻の構えを見せるプーチン露大統領の一手は「攻め」か「守り」か

2021年12月06日(月)20時25分

欧州安全保障協力機構(OSCE)でウクライナ東部の紛争を監視した経験を持つ元英外交官で英有力シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のサミール・プリ上級研究員はIISSのサイトで「ロシアがウクライナに本格侵攻する危険性が出てきたが、全面紛争を求めているのではなく自国利益のため紛争の火種を煽っているのではないか」と分析している。

ウクライナが配備したトルコ製無人戦闘航空機に怯えるロシア

プリ氏によると「モスクワはキエフを大きな軍隊で圧倒しようとしている。 いきなりウクライナに侵攻すると脅しているのではなく、ウクライナ東部ドンバスでの代理戦争をエスカレートさせるのが狙いだろう。ドンバスの紛争はロシアにとって戦略的に役に立ち、ウクライナの安定を永続的に脅かしている」という。

ロシアが今回の派兵を行う動機として考えられるのはウクライナがトルコ製無人戦闘航空機バイラクタル TB2を6機取得したことだとプリ氏は指摘する。「ロシアはウクライナ軍の攻勢で親露派の陣地が脅かされることを恐れている。セルゲイ・ラブロフ露外相は親露派の陣地を守るためより大きな紛争を起こすことを示唆している」という。

「14年から変わっていないのは、ロシアに紛争を終わらせる動機がほとんどなく、ウクライナには紛争を終わらせる力がほとんどないことだ。モスクワはドンバスでの紛争の火を消したり大戦争に点火したりするのではなく、火を煽りたいのだ。国境付近でのロシア軍増強は紛争状態を継続させるために行われたと思われる」

米有力シンクタンク、ブルッキングス研究所のスティーブン・ピファー上級研究員はスタンフォード大学国際安全保障協力センターへの寄稿で「ロシアに利用されたり、扇動されたりするいくつかの危機に欧州は直面している。プーチン大統領が何を狙っているのか、さまざまな憶測が飛び交っている」と指摘する。

欧州が直面する三つの危機

ピファー氏は三つの危機を挙げる。一つ目の危機が欧州の天然ガス価格の高騰だ。ロシアはバルト海の海底を通ってドイツにつながるガスパイプライン「ノルドストリーム2」の早期承認を巡り、天然ガス供給を絞ってブリュッセルに揺さぶりをかける。

二つ目の危機はベラルーシの独裁者アレクサンドル・ルカシェンコ大統領が難民をポーランドに送り込もうとしていることだ。ポーランドが国境警備隊を正規軍の兵士で強化した時、ロシア空軍は核搭載長距離爆撃機をベラルーシ上空に飛ばして威圧した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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