コラム

真珠湾攻撃から80年、米中は歴史を繰り返すのか 英地政学者が恐れる「茹でガエル」シナリオ

2021年11月25日(木)17時15分
台湾海峡

台湾海峡を通過する米駆逐艦ジョン・フィン Jason Waite/U.S. Navy/REUTERS

対米宣戦布告はヒトラーの「誤算」だったのか

[ロンドン発]1941年12月8日未明(米時間7日)、日本海軍が米ハワイ真珠湾軍港を奇襲し、太平洋戦争が始まった。真珠湾攻撃から間もなく80年。真珠湾攻撃からドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーがアメリカに宣戦布告するまでの5日間を詳細に検証した共著『ヒトラーのギャンブル 対米宣戦布告(Hitler's American Gamble)』 が出版された。

共著者の英ケンブリッジ大学地政学フォーラム所長ブレンダン・シムズ教授が24日、英シンクタンク、ヘンリー・ジャクソン・ソサエティーのイベントでドイツや日本が台頭した80年前と米中が対立する現在の地政学的状況を比較した。まず『ヒトラーのギャンブル 対米宣戦布告』の内容を紹介しておこう。

kimura20211125121201.jpg
英ケンブリッジ大学地政学フォーラム所長、ブレンダン・シムズ教授(筆者撮影)

なぜヒトラーは勝ち目のない対米戦争を決断したのか。真珠湾攻撃が行われた瞬間から必然的にアメリカは第二次世界戦争に巻き込まれてドイツと戦うことになり、枢軸国の敗北が決定したというのが歴史上の通説だ。しかしシムズ教授と共著者のキングス・カレッジ・ロンドンのチャーリー・レーダーマン博士は異論を唱える。

12月11日にヒトラーがアメリカに宣戦布告すると決断したことが真の転換点になったというのだ。これまで対米宣戦布告はヒトラーの「誤算」と考えられてきた。英首相ウィンストン・チャーチルも回顧録の中で、真珠湾攻撃を知り「今この瞬間、私はアメリカが戦争の最中にいることを知った。つまり私たちは勝ったのだ」と叫んでいる。

そしてこう続ける。「戦争がどのぐらい続くのか、どのような形で終わるのか誰にも分からない。あの瞬間、私も気にもしていなかった。負けるわけにはいかない。私たちの歴史が終わることはないだろう。ヒトラーの運命も、ムッソリーニ(イタリアの独裁者)の運命も決まった。日本人は粉々にされてしまうだろう。あとは圧倒的な力を適切に行使するだけだ」と。

米の対独戦参戦を「不可避」とは考えていなかったチャーチル

しかしシムズ教授によると、チャーチルは、アメリカの対独戦参戦を「不可避」とは考えていなかった。最も心配していたのは日本軍がアジアのイギリス領を攻撃してもアメリカは指をくわえて見ているだけではないのかということだった。アメリカは軍事物資の貸与から手を引き、全精力を対日戦争に傾けるかもしれない。そうなるとイギリスはさらに窮地に立たされる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米軍、ベネズエラからの麻薬密売船攻撃 3人殺害=ト

ビジネス

米アルファベット、時価総額が初の3兆ドル突破 AI

ビジネス

株式と債券の相関性低下、政府債務増大懸念高まる=B

ビジネス

米国株式市場=ナスダック連日最高値、アルファベット
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story