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インド太平洋の要である日本はAUKUSで悪化した米仏の関係修復に動け
オーストラリアには戦略兵器としての原子力潜水艦が必要だった(写真は2019年、フランスの原子力潜水艦) Benoit Tessier-REUTERS
[ロンドン発]アメリカとイギリスがオーストラリアの原子力潜水艦配備に協力する安全保障パートナーシップ「AUKUS(オーカス)」締結を全く知らされていなかった上、潜水艦建造契約を一方的に白紙撤回されたフランスが激怒している。このためジョー・バイデン米大統領は22日、エマニュエル・マクロン仏大統領に電話会談を申し入れた。
米ホワイトハウスの発表では、両首脳はフランスや欧州のパートナーの戦略的関心事について同盟国間でオープンに協議することが関係改善につながるとの認識で一致した。信頼確保の条件を整え、共通の目標に向けた具体的な方策を提案するため、10月末に欧州で会合を開くという。
バイデン大統領は欧州連合(EU)のインド太平洋戦略を含め、フランスと欧州が関与する戦略的な重要性を再確認した。フランスはアメリカとオーストラリアから大使を召還していたが、来週、ワシントンに駐米大使を帰任させる。しかしマクロン大統領はオーストラリアのスコット・モリソン首相からの電話を拒絶するなど、その怒りは収まらない。
オーストラリアの十分過ぎる理由
AUKUS締結の一報は15日夜、英BBC放送のニュースで突然、流れた。BBCも準備不足は明らかだった。英下院国防委員会のメンバーも誰一人として事前に知らされていなかった。筆者も驚いた。英空母打撃群の極東展開についてさえ国防省の中には「予算には限りがある。欧州の安全保障に専念すべきだ」という慎重論が半分はあると聞かされていたからだ。
原潜は戦略兵器である。オーストラリアが核兵器を保有する可能性は今のところ皆無だが、中国が将来、核戦力を増強するシナリオに米英豪3カ国が備えているのは明白だ。テリーザ・メイ前英首相は下院で「AUKUSは中国が台湾に侵攻しようとした場合にイギリスがとるべき対応にどのような影響を与えるのか」とジョンソン首相を問い詰めた。
「香港返還後も一国二制度は50年不変」と国際社会に誓った英中共同宣言を中国に一方的に反故にされたジョンソン首相は「イギリスは国際法を守る決意を持ち続けている。それが世界中の友人だけでなく、北京に与える強いメッセージだ」と表情を引き締めた。AUKUSはアングロサクソンの米英豪3カ国首脳が下した政治決断だ。
オーストラリアには最大12隻のディーゼル潜水艦を建造するフランスとの契約を白紙に戻してでもAUKUSを締結する十分な理由があった。マクロン大統領も900億ドル(約9兆8900億円)もの建造契約が順調に進んでいなかったことを随分前から承知していた。