コラム

アストラゼネカ製ワクチンの公費接種、日本でもようやく承認 もっと早く認めていれば有観客の五輪もできたはずだが

2021年07月30日(金)21時00分
アストラゼネカ製ワクチン

WHOが今年2月に承認してから5カ月半、世界119カ国が承認済みのアストラゼネカ製ワクチン Dado Ruvic/Illustration/REUTERS

<今は、デルタ株の脅威にさらされている現役世代のワクチン接種加速化へ展開を急げ>

[ロンドン発]英オックスフォード大学が開発、英製薬大手アストラゼネカが製造する新型コロナウイルスワクチンについて、厚生労働省の専門分科会は7月30日、予防接種法に基づき公費で接種できる年齢を原則40歳以上とする案を了承した。公費接種が認められるのは米ファイザー、モデルナ製のm(メッセンジャー)RNAワクチンに続いて国内3例目だ。

チンパンジーのアデノウイルスをベクター(運び屋)に使うアストラゼネカ(AZ)製ワクチンの緊急使用が英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)で承認されたのは昨年12月。世界保健機関(WHO)が今年2月に承認してからすでに5カ月半が経過し、これまでに119カ国が承認済みだ。

AZ製ワクチンの公費接種の承認が遅れに遅れたのは、ワクチン懐疑主義が根強く、石橋を叩いてもなかなか渡ろうとしない日本人特有の慎重さの現れなのか。それとも航空自衛隊の戦闘機調達と同じで、戦略物資のワクチンも「対米従属」の壁があったのか。

いずれにせよ、瀬戸際まで追い込まれないと決断しないのが日本人だ。当初、60歳以上というナンセンスな案も取り沙汰されたが、40~50歳代の感染が拡大していることや全国知事会の要望を受けて、選択肢として残しておいたAZ製ワクチンの公費接種も認めざるを得なくなったというのが実情だ。

AZ製ワクチンを巡ってはフランスやドイツのいわれなき攻撃が続き、ごくまれに出る血小板減少を伴う血栓症のため、厚労省は5月に特例承認したが、公費接種は見送っていた。しかし世界中でワクチンが不足し、接種が進まぬ途上国が多い中、安全性も有効性もWHOの基準を満たすワクチンを選り好みするのは先進国のエゴ以外の何物でもない。

血小板減少を伴う血栓症の副反応の虚実

血小板減少を伴う血栓症の副反応についても、世界的な医学雑誌ランセットの査読前論文でファイザー製とAZ製の安全性は「それほど変わらない」と指摘されている。この研究では、スペインのカタルーニャ州でファイザー接種者94万5941人、AZ接種者42万6272人、コロナ感染者22万2710人、それ以外457万149人を比較した。

静脈血栓塞栓症の標準化罹患比(1人の人が一定年齢までに特定の病気に罹患する割合、罹患率を比較するための指標)は1.29だったのに対し、コロナ感染者では8.04にハネ上がった。それがファイザー接種者では0.9、AZ接種者は1.15に下がっていた。血小板減少を伴う血栓症の標準化罹患比は1.35、コロナ感染者では3.52。ファイザー接種者は1.19、AZ接種者は1.03とAZ製の方が低くなっていた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがウクライナに大規模攻撃、エネ施設標的 広範

ビジネス

米との通貨スワップ、アルゼンチンの格下げ回避に寄与

ワールド

イスラエル議会、ヨルダン川西岸併合に向けた法案を承

ワールド

米航空管制官約6万人の無給勤務続く、長引く政府閉鎖
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 9
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 10
    やっぱり王様になりたい!ホワイトハウスの一部を破…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story