コラム

日本はもう「タケヤリ」とド根性を貫くしかない──コロナ対策を妨げる政治の阻害要因とは

2021年05月13日(木)15時49分

コロナ封じ込めに成功したベトナム、台湾、中国、シンガポール、ニュージーランド、香港、オーストラリア、韓国に比べると日本のコロナ対策は確かに見劣りする。しかし上を見ればキリがない。日本の総人口に占める高齢者(65歳以上)の人口割合は28.7%(3617万人)に達しているので、デジタル化がなかなか進められなかったという事情も大きい。

日本の知人からは「5時間コンピューターの前に座って、コロナワクチン接種の予約を取った」「3日かけてもまだ予約できない人もいる」という悲鳴が聞こえてくる。予約が取れなかった人からかかりつけ医に問い合わせが殺到し、医療現場にも混乱をきたしている。

ロンドンでコロナ対策を取材してきた筆者は、それだけワクチンを打ってほしいと願う人が多いなら、日本の問題はほぼ解消されたと考える。ワクチンは開発するよりも打ってもらう方が難しい。日本国内には「私は打ちません」と公言する学者が少なからずいて心配したが、最大のハードルである心の問題はこれで解消されたも同然だ。

あとはワクチンの安定供給を確保し、スピーディーに接種を展開していくだけだ。

コロナを巡っても利権

日本政府は米ファイザー、モデルナ、ノババックス、英アストラゼネカのコロナワクチン4種計5億6400万回分を購入する契約を結ぶ。欧州連合(EU)の資料では日本にはEU域内の生産拠点から7200万回分がすでに輸出されている。厚生労働省はモデルナとアストラのワクチンについて5月20日の専門部会で承認の可否を判断すると伝えられている。

アストラも承認後、分科会で接種対象が決まればすぐに展開できるよう日本国内での出荷態勢を整えている。日本国内ではファイザー推しの自民党議員が「ファイザーのワクチンがあれば十分」と他社の承認を遅らせるよう圧力をかけてきたが、早くワクチンを打ってという世論に押され、最近、他社のワクチンの承認も急ぐよう態度を改めたという業界の内輪話も筆者の耳に入ってきた。

日本を徹底的にダメにしてきたのは利権が絡んだ政治の阻害要因だ。これまで散々「医療崩壊」を口にし、政府に圧力をかけてきた日本医師会の中川俊男会長がコロナの「まん延防止等重点措置」が東京都に発令されているにもかかわらず、都内で開かれた自民党議員の政治資金パーティーに参加していたのはその象徴である。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、エプスタイン文書の公開支持 共和党議員

ビジネス

高級ブランドのリシュモン、7―9月期は14%増収

ワールド

中国輸出規制でイットリウムが不足、新たなレアアース

ビジネス

米共和党州司法長官、ユニオン・パシフィックのノーフ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story