- HOME
- コラム
- 欧州インサイドReport
- スエズ運河の座礁事故が浮き彫りにしたコンテナ船の超…
スエズ運河の座礁事故が浮き彫りにしたコンテナ船の超巨大化リスク
座礁したエバーギブンにはコンテナが満載(3月28日) Suez Canal Authority/REUTERS
[ロンドン発]世界の海上輸送の12%を占めるエジプト・スエズ運河で3月23日、正栄汽船(愛媛県今治市)所有の世界最大級コンテナ船「エバーギブン」(全長400メートル、幅59メートル、総トン数約22万4千トン)が砂嵐のため座礁し、運河を塞いだ事故は29日になって離礁し始めたものの約330隻が立ち往生し、グローバル化に伴うコンテナ船の超巨大化リスクをまざまざと見せつけた。
1869年に開通したスエズ運河は拡張工事を重ね、現在は総延長193キロメートル、幅205メートル、深さ24メートル。2015年にはそのうち72キロメールが複線化された。もちろんコンテナ船の超巨大化に対応する狙いもある。01年に世界貿易機関(WTO)に加盟した中国はスエズ運河経由で習近平国家主席のインフラ経済圏構想「一帯一路」を欧州に広げている。
スエズ運河の拡張工事を祝う看板。右からナセル、サダト、シシ大統領(2019年筆者撮影)
1997年当時、新型コンテナ船に積めたのはTEU(20フィートコンテナ換算)8千本超だったが、今はその3倍の2万4千本。背景には中国の貿易量が飛躍的に増えたことがある。
全長400メートルの「エバーギブン」がどれだけデカイかと言うと、日本一高い東京スカイツリーの高さは634メートル、東京タワーは333メートル、あべのハルカス300はメートルだ。東京タワーよりはるかにデカイ。
さらにコンテナ1万8349本(最大2万124本積載可能)を積み上げて横から強風を受けながら運河のような細い航路を通過するのは、パイロット(水先人)が乗り込んでいたとしても相当な操船技術が求められる。座礁の原因は今のところ風速15~20メートルの砂嵐とみられているが、船員の操船技術に問題はなかったのか。
1994年には1キロリットル当たり1万4千円だった燃料のC重油は2008年には約6.4倍の最高値8万9550円まで高騰した。燃料費だけでなく船員費用・港湾施設使用料・管理費用の節約、建造費の回収など、コスト削減のためコンテナ船の超巨大化は一気に進んだ。世界金融危機や米中貿易戦争でグローバル化に急ブレーキがかかり、過当競争になったこともさらに超巨大化に拍車をかけた。
「コンテナ革命」を起こした男
しかし港湾施設の整備や操船技術など船員のレベルアップが追いつかないというリスクが以前から指摘されていた。コロナ危機による港湾の労働力不足、供給の停滞に加え、今回の座礁事故でスエズ運河が完全に遮断され、グローバルサプライチェーンの脆弱性が改めて浮き彫りにされた。
物流のコンテナ化を進め、世界貿易を一変させたのは、米ノースカロライナ州の農家に生まれたマルコム・マクリーン(1913~2001年)だ。10代の時、ガソリンスタンドのオーナーから「そこにある古いトレーラーを使っていい」と言われ、空になったタバコ樽を運ぶようになった。高校を卒業して3年後の1934年に兄弟2人とトラック運送業を始めた。まだ大恐慌の時代だった。