コラム

「ブラック・プリンセス」メーガン妃は人種差別の被害者、それとも現代のマリー・アントワネットか

2020年01月23日(木)13時30分

ハフポストと英サンダーランド大学が性差別や人種差別の侮辱を含む最も悪質な約400ツイートを調査したところ「自己嫌悪の人種の裏切り者め」「貧乏人」「猿島の女王メーガン」「有毒牛」「雌」「オ☓☓☓」「売春婦」「痴女」「魔女」という言葉が使われていた。

「どうしてイギリスのタブロイド(大衆紙)はメーガン妃のことを叩きまくるのか」という筆者の質問に英王室伝統のエチケットに精通しているウィリアム・ハンソン氏はこう答える。

「イギリスのタブロイドは確かにメーガン妃にとって不愉快なことばかり書いてきました。王族であろうがなかろうが、国籍が何であれ、背景がどんなものであれ、衆目にさらされる人にとって人の目は恐いものです。人はとてもアンフェアなことを言うものです」

「キャサリン妃や彼女の家族がタブロイドに書かれたことを思い出してください。キャサリン妃は正しい階級の出ではないとか、母親がチューインガムを噛んでいたとか、トイレという時の単語が王室に相応しくないとか。イギリス人にとって社会階級は非常に繊細なトピックです」

「キャサリン妃も彼女の家族も長い間、タブロイドに散々叩かれてきました。それに比べてメーガン妃はヘンリー王子と交際を始めてからの期間が短く、書かれた記事もまだ少ないと思います。どうでも良いこと、馬鹿げたこと、頑迷なことは本来なら新聞に書かれるべきではないのですが、書かれてしまうのが現実です」

人種より金銭感覚が問題?

英王室は白人の特権そのもの。黒人文化と相容れるわけがない。英王室はエリザベス1世時代、奴隷の三角貿易で巨額の富を築いた。イギリスの船で運ばれた奴隷は260万人、アフリカからアメリカに連れて行かれた奴隷は全体で1200万人と推定されている。

アフリカ系の母親を持つメーガン妃が英王室に入り込む余地がないように感じたとしても無理はない。イギリスの黒人社会は一連の騒動に典型的な人種差別の臭いを嗅ぎ取っている。しかし最初はともかくメーガン妃を差別される黒人と意識していた庶民がどれだけいるのだろう。

庶民にとって1410万ドル(約15億4700万円)相当の豪邸で優雅に暮らすメーガン妃は"現代のマリー・アントワネット"のように振る舞っているように映る。世紀の結婚式、豪華な衣装、プライベートジェットを使った贅沢三昧のホリデーに、観客席を占拠したウィンブルドン観戦。

昨年7月には、ヘンリー王子は英海兵隊の慰霊祭をすっぽかしてメーガン妃を売り込むためディズニーの「ライオン・キング」のプレミアに出席していた。こうしたことを全て暴いてきたのが、メーガン妃がデタラメを垂れ流していると忌み嫌っているイギリスの大衆紙なのだ。

皮膚の色より、庶民からかけ離れたメーガン妃の金銭感覚にイギリスの納税者も、カナダの納税者も呆れているように感じるのは果たして筆者だけか。

20200128issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年1月28日号(1月21日発売)は「CIAが読み解くイラン危機」特集。危機の根源は米ソの冷戦構造と米主導のクーデター。衝突を運命づけられた両国と中東の未来は? 元CIA工作員が歴史と戦略から読み解きます。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係

ワールド

シリア担当の米外交官が突然解任、クルド系武装組織巡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story