コラム

暑さ対策でサマータイム導入を検討 東京五輪・パラリンピックの開催はもはや戦争の遂行と同じなのか

2018年08月09日(木)13時00分

1895年にはニュージーランドの昆虫学者が2時間、時計の針をずらすことを唱えたが、周りから一笑に付された。エドワード7世は狩りを楽しむため30分間時計を逆戻しにした。

ウィレットは自分の考えを実現しようと「お昼の無駄遣い」というパンフレットを作って配った。ロイド・ジョージや若きウィンストン・チャーチルの理解を得てデイライト・セービング法案の審議にこぎつけたが、ハーバート・アスキス首相の反対にあい、僅差で否決される。

サマータイムが実現したのはウィレットの死後。第一次大戦最中の1916年、ドイツが1時間のサマータイムを導入。英国も約1年後に後に続く。軍需産業、海軍、鉄道、家庭のエネルギー源となっていた石炭は枯渇していた。

英国は同盟国にも石炭を供給しなければならず、エネルギーの有効活用が勝負の分かれ目だった。チャーチルが陣頭指揮を執った第二次大戦では2時間のダブル・サマータイムが導入されている。

サマータイムがその国にあっているかどうかは緯度によるのかもしれない。緯度が英国よりも高いフィンランドでは「夏は日が暮れず、冬は日が昇らない地域もある。サマータイムは意味がない」という声が多い。

五輪のために総動員か

日本睡眠学会は「サマータイムは慣れるまでに時間がかかる。夜型人間にはつらい。睡眠時間が減る」として生体リズムや眠りの質と量への影響を指摘している。欧州議会はフィンランドの提案を受け、廃止するかどうかを決めるため、欧州連合(EU)域内で意見聴取を行っている。

我が国でも戦後、石炭や電力を節約するためGHQ(連合国軍総司令部)の指示で昭和23年(1948)年から導入されたが、4年後の主権回復とともに廃止された。「労働過剰になる」「慣習を変更されることを好まない」「疲れてだるい」という声が多かった。

全体戦争となった第一次大戦や第二次大戦の時代は総動員で省エネを進めるためサマータイムの導入は不可欠だった。しかし今は個人や企業がフレキシブルに時間を使える時代である。

今さらサマータイムの導入を提唱するのは時代に逆行するような気もするが、地球温暖化対策にどれだけの効果があるのだろう。

それとも東京五輪・パラリンピックの開催はもはや戦争の遂行と同じで、酷暑と熱中症対策としての総動員が必要なのか。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ

ワールド

フィリピン、大型台風26号接近で10万人避難 30

ワールド

再送-米連邦航空局、MD-11の運航禁止 UPS機
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story