コラム

オーストリアが紙一重で「極右」大統領を阻止 右翼ポピュリズムが欧州を徘徊する 

2016年05月24日(火)16時00分

大統領選で辛くも極右候補を下したリベラル派のファンデアベレン Leonhard Foeger- REUTERS

 オーストリア大統領選の決選投票が22日行われ、右翼ポピュリズム政党・自由党のノルベルト・ホーファー国民議会(下院)第3議長(45)が緑の党出身のアレクサンダー・ファンデアベレン元党首(72)に49.7%対50.3%の僅差で敗れた。票数にすると、222万3458票対225万4484票。3万1026票という紙一重の差だった。

 「自由」の2文字が党名に入っているものの、自由党はもともと旧ナチ党員を主な支持層として組織された経緯から「極右」と称される。欧州連合(EU)初の「極右」大統領の誕生は民意の結集で何とか阻止できたが、自由党が50%近い票を集めるのは初めて。大きな衝撃が欧州を突き抜けた。

 投票率は72.7%。即日開票の結果、ホーファーが得票率51.9%で14万4千票リード。しかし約70万票の不在者投票が残っていたため23日、不在者投票の開票が行われた。両親がソ連から逃れた難民だったファンデアベレンは「祖国を愛する者は祖国を分断しない」と社会民主党と国民党の票も集めた。都市部で圧倒的な強さを見せ、ギリギリのところで逆転勝ちした。

 当選したファンデアベレンは「私たちは同じ硬貨の裏表。力を合わせてオーストリアを再建しよう」「国民の恐怖心や怒りに対処するため、これまでとは異なる対話の文化や政治システムが必要だ」と呼びかけた。失業問題に最優先で取り組む方針。今年3月、オーストリアの失業率は5.8%。EU加盟国の中で決して高くはないが、2011年の4.6%からじわり、じわりと悪化している。

最大の争点は難民問題

 今大統領選最大の争点は、バルカン半島ルートを北上してきた難民問題だ。人口850万人の1%強に当たる9万人が昨年、同国で難民申請を行った。昨年10~12月期、人口100万人当たりの新規申請者は3590人にまで下がったが、EU域内ではスウェーデンの9015人を除くと断トツに多い。

【参考記事】モノ扱いされる難民の経済原理

 自由党は、ファイマン前政権の難民に対する「門戸開放」に徹底して反対、支持率を上げた。次の国民議会選の露払いとなる大統領選でホーファーは「祖国はあなたを必要としている」とオーストリア第一主義を唱えた。ホーファーはハンググライダー事故で歩行に杖が必要だが、笑顔を絶やさず、人を引き付けるカリスマがある。それが自由党の「極右」イメ―ジを打ち消した。

 極右の国民戦線が台頭するフランス、民族主義を強める新興政党「ドイツのための選択肢」が躍進するドイツも、オーストリアの影響が自国に広がるのを恐れている。しかもオーストリアはハンガリーのオルバン首相と同様、大ロシア主義を掲げるロシアのプーチン大統領への傾斜を強める。共通するキーワードは、「祖国」と「国民のアイデンティティー」を結びつける「権威主義」だ。

【参考記事】テロ後のフランスで最も危険な極右党首ルペン
【参考記事】メルケルを脅かす反移民政党が選挙で大躍進

 右翼ポピュリズムと権威主義の広がりは皮肉にも、自由と民主主義を錦の御旗に掲げるEUの理念と複雑に絡み合っている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独プーマ、今年も赤字継続と予想 配当中止

ビジネス

「日本の安定性」に魅力の外資系企業、63%で過去最

ビジネス

LSEG、40億ドルの自社株買い計画 エリオットが

ワールド

香港活動家の父親に禁錮8月、保険解約で国安条例適用
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 4
    最高裁はなぜ「今回は」止めた?...トランプ関税を違…
  • 5
    3頭のクマがスキー客を猛追...ゲレンデで撮影された…
  • 6
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 7
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 8
    【クイズ】サメによる襲撃事件が最も多い国はどこ?
  • 9
    2月末に西の空で起こる珍しい天体現象とは? 「チャ…
  • 10
    「IKEAも動いた...」ネグレクトされた子猿パンチと「…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 6
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 7
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 8
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 9
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story