コラム

北朝鮮は戦争をしたいのか?したくないのか?

2017年04月17日(月)20時00分

一方でトランプ新政権では国防長官は任命されたものの、副長官以下はまだオバマ政権の前任者がついているという。そのような環境で北朝鮮に対して本格的な軍事攻撃をする可能性は低いことも指摘されている。

今年4月15日は金日成の生誕105周年で、その日に合わせて、何かしらの軍事行動を起こすのではないかといった見方がメディアで見られた。北朝鮮は確かに金親子の生誕日などの国家的な記念日に合わせて度々、大きなことをしてきたが、当日にミサイル実験をしたことはなく、通常はその数日前か、数日後に行われた。

それは記念日に合わせる目的が国威高揚だからだ。数日前から当日に向けて国中を盛り上げるのだ。また、過去のミサイル実験を振り返って見ると、記念日に合わせたのは多くが北朝鮮が「人工衛星を打ち上げるためにロケットを打ち上げた」としている、一応は形式的にでも平和目的を掲げているのだ。

むしろ核やミサイル実験を北朝鮮が明らかな軍事的な示威行為として行うのは、米韓軍事合同演習や国連の制裁決議があったときなど米国との緊張関係を意識した時期に重なっている。したがって、4月15日は過ぎたが、米韓合同軍事演習が続く4月末までに、再び何かしらの軍事的な挑発を行う可能性は残っている。

米韓軍事演習に無抵抗のままでいられない

北朝鮮は米韓軍事演習をとても嫌がる。米韓の想定する相手国は北朝鮮なので、それは当たり前のことだが、もう一つ理由がある。米韓軍事演習をした場合、北朝鮮が大人しくしているわけにはいかない。なので38度線付近に飛行機を飛ばしたり、あるいはミサイル実験を行うなど、反発しているジェスチャーを見せる。

するとどうなるのか。その分、国の石油が消費され、それはそのまま国民生活に影響を及ぼす。当然、国民は不満を感じる。国民を過度に思想統制する北朝鮮だが、100%国民の心を操るのは不可能なことだ。

2015年の世界の国防費用は1位が米国(5960億ドル)、2位が中国(2148億ドル)だった。北朝鮮はずっと下の75億ドル、46位のギリシャと同じ規模だ(4位・ロシア664億ドル、8位・日本409億ドル、10位・韓国364億ドル)。

一方でGDP対軍事費の比率を見ると、1位は北朝鮮(23.3%)だ。つまり経済力のおよそ4分の1を軍事費に割いているということだ。ちなみに米国は15位で4.3%、ロシアが20位の3.8%、中国は68位の2.0%、日本は136位の1.0%となっている。

そして兵力は北朝鮮は米国と並ぶ138万人で世界3位。北朝鮮の人口はおよそ2500万人。つまり18人にひとりが軍人だという計算になる。

軍事費がいかに北朝鮮経済、そして国民の生活の負担になっているのかがわかる。しかし休戦状態にある中で、駐韓米軍の存在や北朝鮮攻撃を念頭にした軍事演習は、当然、北朝鮮のプレッシャーになり、無抵抗のままではいられない、そこで軍事的アクションを起こす、という悪循環が起きているのだ。

プロフィール

金香清(キム・ヒャンチョン)

国際ニュース誌「クーリエ・ジャポン」創刊号より朝鮮半島担当スタッフとして従事。退職後、韓国情報専門紙「Tesoro」(発行・ソウル新聞社)副編集長を経て、現在はコラムニスト、翻訳家として活動。訳書に『後継者 金正恩』(講談社)がある。新著『朴槿恵 心を操られた大統領 』(文藝春秋社)が発売中。青瓦台スキャンダルの全貌を綴った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対

ビジネス

デフレ判断の指標全てプラスに、金融政策は日銀に委ね

ワールド

米、途上国の石炭からのエネルギー移行支援枠組みから

ビジネス

トランプ氏、NATO加盟国「防衛しない」 国防費不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story