コラム

携帯契約での「読み取り義務化」は、マイナンバーカードの「基本概念」を根本的にひっくり返す悪手だ

2024年07月04日(木)11時42分
マイナンバー制度はゼロから見直すべき

YU_PHOTO/SHUTTERSTOCK

<政府は当初、マイナンバーは厳格な意味でのIDではなく取得は任意としていたが、すでにそうした説明は完全に破綻してしまった>

携帯電話契約時(対面の場合)の本人確認に当たって、マイナンバーカードに搭載されているICチップの読み取りが必須となる。携帯電話がなければ社会生活を送るのが極めて困難という現実を考えた場合、これは政府による事実上のマイナンバーカード義務化といえる。

マイナンバー制度については、無理にカードを使わせようとする政府のスタンスや、セキュリティー面での不備などに対して数多くの批判が寄せられてきた。

だが、これまで指摘されてきた事象は、あくまで個別の問題であると見なすこともできたが、今回の措置は、任意取得という基本概念を根本的にひっくり返すものといえる。制度の根幹が揺らいでいる以上、解体的な出直しが必要である。


マイナンバー制度に対しては、当初からいくつかの疑問点あるいは問題点が指摘されてきた。

1つ目は、マイナンバーカードは厳格なID(身分証明書)なのか、そうでないのか、はっきりしていないというもの。2つ目は、物理的なカードの導入に政府が過度に固執している理由が不明瞭であること。3つ目は、民間での商業利用が大前提となっていること、である。

なぜ政府は「カード」を絶対視しているのか?

政府は当初、マイナンバーは厳格な意味でのIDではなく、「IDカードとしても利用できる」との説明にとどめており、そうであればこそ取得は任意であり、民間企業にも開放するとの流れだった。

厳格なIDでなく、より便利になるツールという程度の位置付けであるなら、セキュリティーも絶対である必要はなく、民間企業に事業を開放し、ポイントなどを使って取得を促すことも許容されるだろう。

だが、紙の健康保険証の廃止に続き、携帯契約時の読み取り義務化が実施されれば、マイナンバーカードはユニーク(唯一の)な身分証明手段とならざるを得ない。そうなると、これはれっきとしたIDであり、もしそうであるならば、気軽に持ち歩くようなものではないし、民間への自由な開放など危険極まりない。

筆者は今でも政府が物理的なカードを絶対視している理由がよく分からない。一部の論者はカードや読み取り機を製造するメーカーの利権が関係していると指摘している。そうした面があるのは事実かもしれないが、それだけの理由でカードの導入をここまでゴリ押しするというのは、他の政治利権との比較で考えても不自然である。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 適用27年6月に先送

ワールド

トランプ氏、カザフ・ウズベク首脳を来年のG20サミ

ワールド

米司法省、エプスタイン新資料公開 トランプ氏が自家

ワールド

ウクライナ、複数の草案文書準備 代表団協議受けゼレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story