コラム

GDPプラス成長でもまったく喜んでいられない満身創痍な日本経済

2021年08月26日(木)18時11分
日本社会(イメージ)

CARL COURT/GETTY IMAGES

<プラス成長だった日本のGDPだが、それ以前のマイナスは取り戻せず。長期の低迷から抜け出す日はいつになるか>

内閣府は2021年8月16日、4~6月期のGDP速報値を発表した。物価の影響を考慮した実質成長率(季節調整済み)は前期比プラス0.3%、年率換算ではプラス1.3%となった。

前期は0.9%のマイナス(年率換算では3.7%のマイナス)だったのでプラス成長ではあるが、現実問題としてはそう捉えないほうがよい。マイナス成長の後は反動でプラス側に大きく振れる傾向が強くなるものだが、今回はわずかな上昇にとどまっている。

4~6月期の大半は東京都や大阪府などに緊急事態宣言が発令されていたことを考えると、むしろ経済は持ちこたえたほうだろう。というよりも緊急事態宣言が実質的に機能していなかったことの裏返しとも言える。

GDPの中身を詳しく見ると日本経済が置かれた状況の厳しさがより鮮明になってくる。経済の屋台骨でありGDPの過半数を占める個人消費は0.8%の伸びにとどまった。コロナ危機で賃金が下がっている現実を考えると、消費が大幅に増える要素は見当たらない。

国内需要を支えたのが住宅投資(プラス2.1%)というのも少々皮肉である。比較的所得の高い層が今後の物価上昇を警戒して不動産を積極購入しており、首都圏の新築マンションの平均価格は既に6000万円を突破している。高額なマンションの販売はGDPに貢献するものの、あくまで高所得層に限定された動きであり、広く消費を喚起する材料にはならない。

輸入の増加が意味するもの

4~6月期の数字で特に目立つのは輸入の増加である。GDPの定義上、輸入はマイナスにカウントされるが、輸入は前期比で5.1%も増えた。

諸外国ではコロナ終息後の景気回復期待からインフレが進行している。原材料価格の高騰によって日本の輸入金額も増加しており、これがGDPを引き下げた。最近、サラダ油やマーガリンなど食品の値上げが相次いでいるが、一連の背景には全世界的な資材不足と物価高騰がある。

低迷が続く日本を尻目に諸外国は急ピッチで経済を回復させており、アメリカ商務省が発表した4~6月期の成長率は年率換算で6.5%のプラスとなった。アメリカ経済は既にコロナ危機前の水準を取り戻しており、個人消費が驚異的な伸びを示している。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story