コラム

経営者のスキルマトリックスが、日本企業にとっては特に有意義な理由

2021年06月15日(火)20時14分
ビジネスマン(イメージ)

taa22-iStock

<東証が上場企業に対して開示要請するとみられる「スキルマトリックス」は、企業の評価に大きな意味を持つ>

日本の上場企業の経営陣の能力を一覧表にした「スキルマトリックス」が注目を集めている。投資家にとっては、経営陣がどのような能力を持つのか一目瞭然なので有益な情報源となるのは間違いない。一方で、学校の通信簿のような画一的な評価は経営者にはなじまないとの意見もある。

スキルマトリックスは、経営陣が持つ経験やスキルなどを一覧表にして取りまとめたもの。明確な書式が決まっているわけではないが、縦軸に取締役名、横軸に経験やスキルについて記したものが多い。

具体的にはグローバル経営、技術開発、財務、IT、リスク管理、M&A(合併・買収)、法務といった項目が並ぶ。この一覧表があれば、取締役の誰がどのような能力を持っているのか、各役員の経歴を詳細に調べなくても理解できる。また、スキル項目にどのようなものを盛り込んでいるのか、どのようなスキルを持つ人を登用しているのかなど、各社の比較が容易になるので、当該企業が何を重視しているのかが可視化される。

例えば、社内昇進の役員に専門性がほとんどなく、一部の社外役員だけに依存している取締役会の場合、スキルマトリックスを見れば専門性の高い項目が社外役員に集中しているので、いびつな構図がすぐに分かる。このような企業は、単なる年功序列で役員を決定している可能性が高いと判断できる。

年内にも開示が進むと予想される

現時点でスキルマトリックスを開示している上場企業はまだ少数派だが、東京証券取引所は6月にも上場企業に開示要請を行う方針で、年内にも開示が進むと予想される。多くの企業が開示を行えば、市場に対する透明性が拡大するのは間違いないだろう。

画一的な項目では経営陣の能力を十分に評価できないとの意見もあるようだが、筆者はその心配はほぼゼロだと考えている。上場企業の中には、余人をもって代え難い能力を持ち、その力量について常識的な項目では評価できない経営者が存在している。具体的にはソフトバンクグループの孫正義会長兼社長や日本電産の永守重信会長、米企業ならテスラのイーロン・マスクCEOといった人たちである。

だが、こうした経営者はごくまれであり、たいていは創業者かそれに類する立場である。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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