コラム

日本の中途半端なミャンマー政策 世界からは中国と同一視されかねない

2021年04月13日(火)15時30分
ミャンマー市民によるデモ

REUTERS

<ミャンマーの高度経済成長を支えたのは日本と中国の積極投資だが、クーデターにより決断が迫られている>

ミャンマー情勢が混迷を極めている。アメリカはミャンマーとの貿易投資協定を見直すとともに、各国に対して制裁強化を呼び掛けているが、中国は内政干渉だと反発している。日本は中国と並んでミャンマーへの経済支援を続けてきた国の1つだが、経済と政治は別という理屈はもはや通用しなくなっている。

ミャンマーでは長く軍政による弾圧が続いており、アメリカは1997年からミャンマー制裁を行ってきた。2015年の総選挙でアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が勝利し、スーチー氏が事実上の政権トップに就任したことから16年に制裁は解除されたが、その後も実権は軍が握っていたとされる。

今回のクーデターでスーチー氏が完全に排除されたことで、結局は元の状態に戻った格好だ。

完全な民主化が実現していないため、アメリカの制裁解除後も諸外国はミャンマーに積極進出していなかったが、例外となっていたのが中国と日本である。ミャンマーの過去5年における実質GDP成長率は平均6.5%と高く、日中両国による積極投資がミャンマーの高成長を支えてきた。

小国だが駆け引き上手なミャンマー

19年におけるミャンマー最大の輸出先は中国で全体の31.7%を占めており、日本はタイに続いて3位となっている。ミャンマーには、三菱商事、スズキ、トヨタ、ユニチャーム、キリンなど400社以上の日本企業が進出しており、同国への直接投資額は、香港を区別すると中国よりも多い。

日本は太平洋戦争当時の経緯から、ミャンマーを親日国と認識する人が多く、ミャンマーとの関係強化は日本の独自外交の成果とされた。だが民主主義を基軸とする先進各国の目は厳しく、場合によっては板挟みとなるリスクが指摘されてきたのも事実である。ミャンマーは小国だが、大国との駆け引きが上手な国としても知られており、一方的な思い込みは危険である。

近年、米中関係が悪化していることから、中国は今回のクーデター発生を受けてASEAN(東南アジア諸国連合)各国と協議を重ね、米欧の干渉を排除する方向性で連携の強化を図っている。日本は民主国家であり中国とは異なる価値観を持つ国であることを内外にはっきり示したいのであれば、米欧との連携は不可欠である。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story