コラム

大量失業時代、自助・共助・公助のお題目は「政府の無策」の隠れみの

2020年10月28日(水)12時08分

YUYA SHINOーREUTERS

<菅首相は「自助・共助・公助」を掲げるが、現実は負担を自助・共助に押し付けるばかりで、まともな公助はない>

コロナ危機で多くの労働者が仕事を失っている。コロナによって壊滅的な影響を受けた外食産業や観光産業では多くの労働者が解雇された。年初との比較で国内の就業者数は81万人減少したが(季節調整済み)、一方で失業者数は41万人しか増えていない。8月の完全失業率は3.0%とジワジワと上がっているものの急上昇というほどではない。

81万人が仕事を失ったのに、なぜ失業者は41万人しか増えていないのだろうか。この疑問を解くカギは仕事を失った人の属性にある。減少した就業者の多くは正社員ではなく非正規社員であり、少なくともこれまでの解雇は非正規社員が中心だったことが分かる。

統計上、失業者としてカウントされるには、継続的に求職活動を行っている必要がある。つまりハローワークに通うなどの各種求職活動を行っていなければ失業者と認定されない。就業者(仕事をしている人)が大幅に減り、失業者がそれほど増えていないということは、仕事を失った人が求職活動をしていないことを意味する。

日本の労働市場は正社員と非正規社員で二分されており、両者には身分格差と揶揄されるほどの違いがある。非正規社員の場合、ポテンシャルで採用される可能性は低く、現時点では新しい仕事を見つけるのが非常に困難と考えられる。あまりの状況の悪さに就職を諦めてしまったケースが多いのではないだろうか。

日本は公的支援が不十分な国

単身者で家族がいる人は、家を引き払って実家に戻り、既婚者でパートナーに収入がある場合には、取りあえず仕事を辞めて様子を見ている可能性が高い。菅義偉首相が政策理念として「自助」「共助」「公助」を掲げたことが賛否両論となっているが、自力(自助)で仕事を見つけられなかった人は、共助という形で家族や親類が当面の生活を支えているのが現実だろう。

菅氏の発言は一部から批判されたが、発言の是非以前の問題として、日本はもともと公的支援が十分な国とは言い難い。公的年金は、高齢者の面倒は家族が見るという世代間扶養の考え方を公的制度に応用したものだし、日本の相対的貧困率は約15.7%と世界有数の弱肉強食国家であるアメリカに匹敵する水準だ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story