コラム

米国で早期リタイアを目指すミニマリストの若者が増えている理由:FIRE運動の背景を探る

2019年03月05日(火)14時00分

徹底的に合理化された社会システムからの逃避

かつてヒッピーに夢中だった西海岸の高学歴の若者は、やがてシリコンバレーなどに設立されたハイテク軍需企業やIT企業などに吸収されていき、今となってはビジネスの第一線で働いているケースが多い。米国のTVドラマでは、反戦活動をしていた元ヒッピーが、時代が変わって皮肉にも軍需企業の幹部となり、現実社会と折り合いをつけていく苦悩を描いた作品をよく見かける。

FIRE運動の中核となっているのも、金融業界やIT業界に勤める高学歴、高収入のホワイトカラー層なので、かつてのヒッピーに通じる部分があるが、彼等は最終的に組織の中で折り合いを付けようとは(今のところ)思っていない。

一般的に彼等は競争社会における成功者ということになるが、そうであるが故に、徹底的に合理化された現代の社会システムを知り尽くしている。そして、一連のシステムに関する呪縛から抜け出す方法を模索している。

確かにアマゾンやグーグルの社員は平均的な労働者から見れば成功者かもしれないが、その上には、創業者や資本家というとてつもない成功者が存在している。もう一段、上を目指すということになると、まさに気の遠くなるような競争社会に自らを放り込む必要がある。しかも、これからの時代はAI(人工知能)という強力なツールが現れ、多くの人がこれに翻弄される可能性が高い。

ある程度のところで、こうした無限のゲームに見切りを付け、持続可能でコンパクトな生活を送りたいと考える人が出てくるのも無理はないだろう。

【参考記事】ウォール街を襲うAIリストラの嵐

ベーシックインカムの議論にも影響を与えるか?

彼等が目指すリタイアの方向性は極めてシンプルである。生活を極限まで切り詰め、収入の多くを貯蓄もしくは投資に回すことで、10年から15年程度の期間でまとまった資産を作ることを目標としている。一定の資産があり、引き続きコンパクトな生活を持続できれば、安全運用による収入だけで暮らしていけるという算段である。

年収1500万円の人が、生活を極限までコンパクトにすれば、年間数百万円の金額を貯蓄することは理屈上、不可能ではない。米国では株式投資が盛んなので、毎年、その資金を投資に振り向けることで、平均すると数%以上の利回りで資産を増やすこともできる。15年程度の時間をかければ、1億円程度の資産を保有するのも不可能ではないだろう。

1億円の資産があれば、債券など安全資産に投資することで年間300万円程度の不労所得が得られる。これだけでは十分とはいえないが、スキルのある人たちなので、この300万円をベースに、自分が受けたい仕事だけを受けるようにすすればよい。こうしてストレスなく年収500~600万円を確保し、夢のスローライフを実現するわけだ。

1億円あれば理想的だが、場合によっては5000万円程度の資産でも何とかなるかもしれない。だが、徹底的な倹約と運用だけでこの資産を構築するためには、それなりの高収入が必要であり、FIREを目指す若者すべが達成できる話ではない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米耐久財コア受注、12月は0.6%増 出荷も堅調

ビジネス

米一戸建て住宅着工、12月は4.1%増 許可件数は

ワールド

NEC委員長、米国民が関税負担とのNY連銀報告書を

ワールド

高市首相、消費減税「時間かけるつもりない」 市場の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポーランドが「核武装」に意欲、NATO諸国も米国の核の傘を信用できず
  • 2
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 3
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 4
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 7
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 8
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 9
    アフガニスタンで「対中テロ」拡大...一帯一路が直面…
  • 10
    極超音速ミサイルが通常戦力化する世界では、グリー…
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story