コラム

宇野・カジサック問題に見る、「ムラ社会」日本の足かせ

2019年02月19日(火)13時30分

消費経済へのシフトで躓いた日本

一般的に豊かな工業国は、社会が成熟するにつれて、輸出主導型経済から消費主導型経済への転換を迫られる。かつてモノ作りの拠点だったオランダは英国に取って代わられ、英国は米国に、米国は日本に、そして日本は中国に取って代わられようとしている。

世界の工場だった国はほぼ例外なく後発の新興国にキャッチアップされてきたが、こうした工業国は、輸出で得た豊富な資本蓄積を背景に、消費大国にシフトすることで成長を継続できる(国際収支発展段階説)。

日本も経常収支の多くを投資収益(所得収支)で稼ぎ出すようになっており、セオリー通り、消費主導型経済へのシフトが進んでいるはずだが、どういうわけかうまく経済を成長させることができない。欧米各国は過去20年で経済規模を1.5倍~2倍に拡大させたが、日本はほぼ横ばいのままである。

日本では、バブル崩壊後、大型公共事業、構造改革、アベノミクスと、あらゆる政策が動員されたが、どれも目立った効果を発揮しなかった。需要サイド、供給サイド、需要サイドの変形版である金融的アプローチと、現代経済学で考えられるほぼすべての施策を実施したものの、うまく機能していない。日本は、輸出という外需がなくなった途端、成長が止まってしまったのである。

これには様々な原因があるだろうが、GDP(国内総生産)の大半を占める個人消費が機能していないことがもっとも大きいと考えられる。

輸出というのは外需であり、経済学の一般論として国内事情とは無関係に決定される。外国に需要があり、その需要に応える生産力があれば、黙っていても製品は売れる。獲得した外貨によって資本が蓄積されるので、生産さえできれば、半ば自動的に経済を拡大できる。多くの途上国が工業化によって豊かになることを試みているのはこうした理由からだ。

だが消費主導型経済の場合、自らが消費を拡大して成長に結び付ける必要があり、実現するのはそう簡単なことではない。先進国の場合、衣食住といったプリミティブな欲求はすでに満たさているので、より個性的で抽象的な欲求を消費者が持たなければ、消費拡大にはつながらない。しかも、成熟社会における多様化した消費需要に応えるためには、供給側にも大きな自由度が必要となる。つまり成熟国家においては、その経済圏の本質そのものが問われることになる。

社会のIT化によって日本はさらに厳しい状況に

筆者は、宇野・カジサック騒動に代表される日本のムラ社会的な体質が、国内の消費低迷に大きな影響を与えていると考えている。

一部の先端的な分野を除き、経済学は基本的にスタティック(静的)な分析が主流なので、現状のまま輸出が増えると消費や投資がどう変化するのかといった、状態の遷移についてはモデルとして追うことができる。だが、どうすれば消費が増えるのかという根本的な部分を解決することはできない。

だが経済についてそれほど難しく考える必要はなく、特に消費については、わたしたちのマインドが大きく影響していることはあらためて議論するまでもないだろう。他人からの目線や批判をいちいち気にしなければならない社会では、画期的なモノやサービスは生まれようがないし、集団で固まって行動し、お互いの足を引っ張り合っているような状況で消費が拡大しないのは明白である。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story