コラム

過剰クレーム問題――本当の敵は社内にいる?

2018年08月07日(火)13時15分

praetorianphoto-iStock

<過剰クレーマーによる被害が放置されてしまう所以、「顧客至上主義」の釈然としない部分>

近年、顧客による過剰なクレームが社会問題となっている。過剰クレームに対処するため、マニュアル整備などが進められているが、この問題がなくならないのは、マニュアルが存在していないからではない。過剰クレーム問題と企業組織のあり方には実は密接な関係があり、健全な組織を作ることができれば、過剰クレーム問題は自然と消滅する可能性が高いのだ。

サービス業に従事する労働者の7割以上が経験

流通業などの労働組合が加盟するUAゼンセンが2017年に行った調査によると、業務中に顧客から迷惑行為を受けた人の割合は73.9%に達している。もっとも多いのは暴言で、同じ内容を繰り返す、権威的(説教的)態度、威嚇脅迫、長時間拘束と続いている。

セクハラ、金品の要求、暴力行為といったレベルになってくると割合が大きく低下している。威嚇・脅迫を除けば、すぐに犯罪につながるような行為ではなく、微妙なラインでの過剰クレームが多いことが分かる。

また、クレームを受けた人の6割が、自身の対応の結果、顧客の問題行動は収まったと回答しているので、顧客が明確な意思を持って抗議しているというよりは、単なるハケ口として店員などに八つ当たりしている様子がうかがえる。アンケートでも24.2%の人がサービス業の従業員は「ストレスのハケ口になりやすい」と認識している。

ではこうした過剰クレームは、近年、急増している現象なのだろうか。先ほどのアンケート調査では、迷惑行為が増えていると感じる人は約50%となっているが、「あまり変わらない」という回答も30%、分からないという回答も17%ある。クレームが増加しているのはその通りかもしれないが、急増しているとまでは考えない方がよさそうである。

サービス業の従業員に対して高圧的に振る舞ったり、クレームを付けるというのは、最近始まったことではなく、古い文献などを見ても、接客する従業員に対して高圧的に振る舞う迷惑な顧客の話がよく出てくる。

日本が顧客至上主義という話は本当か?

最近はネットの普及で、こうした状況が可視化されるケースが増えてきたことから、情報が拡散しやすくなり、社会問題として顕在化した可能性があることは否定できない。

つまり過剰なクレームは以前から存在していたが、企業の現場ではそれが長年、放置されてきたと考えるのが自然だろう。では、なぜ日本企業ではこうしたクレーム問題が放置されてしまうのだろうか。

対策が講じられない理由としてよく言われているのが、企業の顧客至上主義である。日本では「お客様は神様」なので、顧客の横暴な態度には逆らえないという理屈である。

だが日本が顧客至上主義という話には、釈然としない部分が残る。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対

ビジネス

デフレ判断の指標全てプラスに、金融政策は日銀に委ね

ワールド

米、途上国の石炭からのエネルギー移行支援枠組みから

ビジネス

トランプ氏、NATO加盟国「防衛しない」 国防費不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story