コラム

通勤電車や新幹線がやたらと混んでいるのはなぜ?

2018年07月11日(水)12時00分

写真はイメージです。 bennymarty-iStock

<混雑で有名な東急田園都市線(渋谷~中央林間)は利用者が7%も増加している。小田急電鉄は莫大な金額を投じて複々線化したが、長い目で見れば混雑は自然に解消する...!? >

このところ鉄道の混雑がよく話題になる。首都圏の通勤ラッシュは一向に解消されず、新幹線も常に乗客で溢れており、利用者のストレスはたまる一方だ。鉄道の混雑について、景気が良くなっている証拠であると前向きに捉える人もいるが、果たしてそれは本当だろうか。

一般に鉄道輸送量と実質GDPは比例するが

鉄道が混雑する原因のひとつとしてよくイメージされているのが、外国人観光客の増加である。外国人観光客はスーツケースなど大きな荷物を持って移動することが多く、地理にも不案内なので、日常的に利用している人からすると、目に付きやすい存在かもしれない。

ただ、マクロ的に見ると外国人観光客の増加で鉄道が混んでいるとは考えにくい。

2017年に日本を訪れた外国人観光客は2869万人だった。一方、鉄道の年間延べ利用者数は250億人近くに達する。多くの人が利用する新宿駅はJRだけで1日あたり77万人が乗車しており、駅全体では300万人を突破するともいわれる。これと比較すると外国人の数はごくわずかでしかない。

新幹線の利用者数も膨大で、年間約3億8000万人が利用している。外国人観光客の全員が新幹線を利用するわけではないことを考えると、新幹線の混雑についても別なところに原因がありそうだ。

では景気との関係はどうだろうか。一般に鉄道の輸送量とその国のGDP(国内総生産)には、一定の相関があると考えられている。輸送量は運賃を加味しない数値なので、厳密に言うと数量ベースのGDPである実質GDPと鉄道輸送量に相関があると考えた方がよいだろう。

もし景気の拡大に輸送量が追いついていない場合、混雑という形でその状況が顕在化するはずである。

過去15年間における鉄道の輸送量(旅客人キロ)の増減と実質GDPの変化を比較してみると、相関係数は0.6となり、やや高い相関が見られる。移動手段は鉄道だけではないことなども考慮すると妥当なところだろう。基本的に日本経済の推移と鉄道の輸送量はほぼ同じペースで推移していると考えてよい。

ここ1~2年、堅調な米国経済を背景に日本の成長率も上がっているが、好景気と呼べるほどの状況ではない。景気が加熱したことで、鉄道が混んでいるというわけではなさそうだ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story