コラム

いざなぎ景気を超える好景気と言われるのに、実感が湧かない理由

2017年12月19日(火)13時25分

タテで比べるか、ヨコで比べるか

もちろんこうした考え方には異論もある。いざなぎ景気は、末期とはいえ高度成長期に位置しているので、今の成長率と比較するのはナンセンスであるとの見解である。確かにその通りであり、新興国として世界に工業製品を輸出していた当時の日本と、すでに成熟国になった現在の日本が同じ成長率であるわけがない。

一般に、物事を比較する際には2つの方法があるといわれる。それは「タテ」と「ヨコ」である。タテは時間を遡って比較する方法であり、「ヨコ」は同じタイミングで似たような事例と比較する方法である。過去の景気拡大局面との比較は「タテ」ということなるが、「ヨコ」は、同じような経済水準を持つ他国との比較ということになる。

国家は新興国から成熟国になるにつれて成長率が鈍化してくることが多いので、今の日本が景気がよいのかどうかは、他の先進国の成長率と比較した方が生活実感に合いやすい。

2012年から2017年にかけての主要国の成長率の平均値(2017年は推定)は米国が2.2%、英国が2.0%、ドイツが1.4%となっている。リーマンショックに伴う不良債権問題に悩まされたイタリアがほぼ横ばい、フランスが1%を切る状況となっている(先ほど説明したように日本は1.3%)。

経済状況が悪い国と比較すると日本の成長はまずまずだが、経済の優等生である米国や英国と比較すると6割程度の成長率しかないことになる。ただ、ドイツは1.4%と日本に近い水準だが、同国は好景気を謳歌しているイメージが強く、フランスも若年層の失業率が高いことを除けば、景気が悪いという雰囲気はほとんど感じられない。このギャップはどこから来るのだろうか。

その原因は、バブル崩壊後の「失われた20年」にあると考えるのが妥当である。

日本はバブル崩壊、長期にわたる不況に苦しみ、過去20年間、GDPがほぼ横ばいで推移した。しかし同じ期間、他の先進各国はGDPを1.5倍から2倍に拡大させている。1人あたりのGDPも日本はほぼ横ばいだが、他国は1.5倍から1.8倍に拡大した。

1人あたりのGDPは国民の平均年収に近いと考えてよいので、この現実はかなりシビアだ。一般的なサラリーマンの生活に当てはめれば、自分は過去20年間ほどんど昇給していないのに、他のすべての同僚は、給料が1.5倍から1.8倍になったということである。年収400万円の人なら、同僚はすべて600万円から720万円になっているのに、自分だけは400万円のまま。しかも、その間、物価は年収が高い人に合わせて上昇している。

過去より未来を考えた方が有益?

つまり日本人は以前と比べて、同じ労働で3分の2か半分程度のモノしか買えなくなっているのだ。最近、日本が貧しくなったという話をよく耳にするが、数字で見ればそれはハッキリしている。実質年収が半減した状態では、直近5年間の経済成長率が、他国並みになったところで、豊かさの実感を得ることができないのは当然のことだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネスなどの分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『スタグフレーション』(祥伝社新書)、『本気で考えよう! 自分、家族、そして日本の将来』 (幻冬舎新書)など著書多数。

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