コラム

日本の睡眠が危ない! 働き方改革はライフスタイルの見直しから

2017年07月18日(火)16時20分

産業構造を変えないと生産性は上昇しない

こうした状況を総合的に考えた場合、このところ話題になっている「働き方改革」は単に残業を減らせばよいという問題ではないことが分かる。

労働生産性は付加価値を総労働時間で割って求められるので、労働生産性を向上させるためには、分子(付加価値)を上げるやり方と、分母(総労働時間)を減らすやり方の2種類がある。しかし、両者は独立した変数ではなく、産業構造によってその関係性は変化する。

知識集約型の社会では、労働時間と付加価値の関連性が低く、短時間で極めて大きな成果を得られる可能性が高い。一方、労働集約型の社会では、付加価値と労働時間はほぼ比例している。つまり長時間労働しなければ、売り上げを拡大することができないのだ。

労働集約的な産業構造を残したまま、労働時間だけを無理に減らしてしまうと、今度は生産量が減少するという事態に陥る可能性がある。日本社会は、労働集約的な産業構造が色濃く残っており、この部分を改革しなければ、時間短縮には限界がある。これは現場の問題ではなく、経営そのものの問題といってよいだろう。

厚生労働省がまとめた労働経済白書でも、日本の生産性の低さは付加価値要因が大きいと結論付けている。要するに儲かるビジネスにシフトしなければ、残業からは解放されないのである。

時間を確保することが経済成長につながる

もうひとつは、ライフスタイル全般の問題である。通勤時間が長く、仕事と会社の往復で1日が終わってしまうと、他のことに時間を割く余裕がなくなる。これは余暇における支出が少なくなることを意味しており、最終的には消費の抑制につながってしまう。

日本が途上国の時代であれば、工業製品の生産にすべての時間を費やすことで、相応の付加価値を得ることができたかもしれない。しかし日本はすでに成熟国であり、豊かな消費を維持することこそが成長の源泉となっている。生活時間に余裕がないことは経済全般にマイナスの影響をもたらすと考えるべきだろう。

人口の集約化をもっと進め、労働時間に加えて、通勤時間の圧縮についても、強く意識する必要がある。先ほどのOECDの調査では、家族との時間に加えて、友人と過ごす時間も短いとの結果が出ている。残業が減り、通勤時間も短くなれば、友人との時間を確保できるようになるだろう。当然のことながら、ここには新しい消費が発生する余地があるので、経済にとっても悪い話ではない。重要なのは、単純に残業を減らすことではなく、わたしたちのライフスタイル全般を見直すことである。

【参考記事】「残業100時間」攻防の茶番 労働生産性にまつわる誤解とは?
【参考記事】このままでは日本の長時間労働はなくならない

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プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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