コラム

トランプが...ではなく「米国は」もともと分断と対立の国

2017年02月07日(火)15時21分

また、日本ではあまり報道されなかったが、オバマ政権下では日本に配備する空母の不要論まで飛び出していた。横須賀を母港とする米海軍第7艦隊の主力空母ジョージ・ワシントンは、大規模修繕に入るため米国に戻る予定だったが、一時は後継の空母を横須賀に配備しないという話が浮上していた。

最終的にはロナルド・レーガンの配備が決定し、同艦は現在、横須賀に常駐している。だが、アジア太平洋地域の地政学に少しでも関心のある人なら、横須賀に空母を配備しないという議論が出たことの重大性を理解できるはずだ。これは在日米軍撤退を匂わせたトランプ政権の話ではなくオバマ政権での話である。

つまり米国の「引きこもり」はトランプ氏が思いつきで始めたことではなく、以前からその潮流が出来上がっていたと考えた方が自然である。トランプ氏はその流れを下品な形で顕在化したに過ぎない。

米国が引きこもりなるための経済的な諸条件はすべて整っている。米国はシェール革命の結果、サウジアラビアを抜いて世界最大の石油産出国となった。米国はこの先、エネルギーを外国に頼る必要がまったくない。

しかも世界最大の消費市場を持ち、食糧も自国で生産することができる。高度なITを持ち、圧倒的な規模の金融市場を運営している。こうした基礎的条件の変化は、確実に米国民の意識を変えているはずであり、それが政治にもあらわれているのだ。

民主党は必ずしもリベラルな政党ではなかった

米国内の対立・分断についても同様である。米国は南北戦争という激しい内戦を行った国であり、公民権運動が盛り上がった1960年代にも、すさまじいまでの対立があった。

米国は常に分断と融和を繰り返し、変化を遂げてきた国であり、それは政党も同じである。多くの人が民主党はリベラルな政党と思っているが、それは党の戦略として、あえてリベラルに舵を切った結果にすぎない。民主党は以前は南部の土地所有者を支持基盤としており、どちらかというと人種差別的であり、共和党の方がむしろ融和的だった。

公民権運動のひとつのきっかけとなった出来事にリトルロック高校事件と呼ばれるものがある。1954年、黒人と白人の融合教育が進み、南部アーカンソー州リトルロックの公立高校に黒人生徒が登校を開始すると、当時のフォーバス州知事が混乱を避けるとの名目で州兵を学校に送り、事実上、黒人の登校を阻止してしまった。

これに対して全米から反発の声が上がり、州と連邦政府は対立、最終的には連邦政府が軍をアーカンソー州に派遣するなど、一触即発の状態となった。この時、しぶしぶながらも連邦軍の派遣を決定したのは、共和党のアイゼンハワー大統領であり、一方、黒人の登校を阻止したフォーバス州知事は民主党である。しかもフォーバス氏は、その後、辞任するどころか、再選を果たし、6期も州知事を務めた。

この事件を見れば、人種差別というものがいかに根深いものであるのかがよく分かる。また、共和党=保守、民主党=リベラルという簡単な図式では判断しない方がよいということも理解できるだろう。ちなみにリトルロックは、民主党のビル・クリントン大統領ゆかりの地である。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネスなどの分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『スタグフレーション』(祥伝社新書)、『本気で考えよう! 自分、家族、そして日本の将来』 (幻冬舎新書)など著書多数。

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