世界の経済学者の「実験場」となりつつある日本
現金の流通を廃止すればマイナス金利は効果を発揮する?
同じく著名な経済学者であるケネス・ロゴフ氏は、近著においてマイナス金利の効果を最大限発揮するため、現金の流通を廃止すべきと提言している。日本はその有力候補だというが、日本は経済規模に対する現金の比率が高く、現金を廃止した時のインパクトは大きい。
現在、日本に流通している紙幣とコインの総額は90兆円ほどで、これはGDP(国内総生産)の17.4%を占めている。同じ比率を計算すると、米国は7.7%、ユーロ圏は10.2%なので、日本の比率が高いことが分かる。
しかも、ドルとユーロの現金を保有する人のかなりの割合が、資産保全を目的とした外国人であるともいわれる。こうした目的で日本円を保有する人はほとんどいないことを考えると、一般的な国民が日々の決済に使用する現金という意味では、日本は最大の現金保有国の一つということになるのかもしれない。
量的緩和策は、基本的に現代経済学の主流となっている合理的期待仮説をベースに組み立てられている。つまり、国民は、現在利用可能なすべての情報に基づいてインフレ期待を形成するので、おおむね合理的に振る舞うという考え方である。したがって中央銀行がインフレになるよう適切に政策を実施すれば、それにしたがって市場もインフレになるという仕組みだ。
ところが日本では、中央銀行がいくら量的緩和を進めてもなかなかインフレにならない。これは各国の経済学者の中でも大きな謎となっている。彼等は、日本は普遍的な理論が適用できない唯一のマーケットなのか、それとも日本人は単に非合理的なだけで、理論そのものは合っているのか、この目で確かめたいと考えているはずだ。
欧米各国では程度の差こそあれ、量的緩和策の実施によって、市場はおおよそ期待した通りに動いてきた。しかし、この法則が適用できないマーケットが存在した場合、どこまでなら政策を強行できるのかという点について、実は誰も知見を持ち合わせていない。彼等は、日本市場でこうした少々危険な実験を試みたいという誘惑に駆られている可能性が高いのだ。
ミルトン・フリードマンはチリを「実験場」にした
こうした動きはかつてもあった。マネタリストとして知られる経済学者のミルトン・フリードマン氏は、自らの経済理論の正しさを証明するため、1980年代から2000年にかけてチリ政府に働きかけ、数々の経済的な実験を行った。実際の経済政策の遂行は、シカゴ大学におけるフリードマンの教え子たちが担当したことから、彼等はシカゴ・ボーイと呼ばれた。
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