コラム

「年金維持のため69歳定年に」日本より健全財政のドイツでなぜ?

2016年09月06日(火)16時17分

 日本の公的年金は、サラリーマンの人が加入する厚生年金と、主に自営業者の人が加入する国民年金に分かれている(公務員が加入する共済を除く)。年金の給付額は厚生年金が約23兆円、国民年金が20兆円(厚生年金の基礎年金部分も含む)となっているので全体では約43兆円となる。一方、現役世代から徴収する保険料は、厚生年金が26兆円、国民年金が1.6兆円となっており、給付額の65%しか保険料で賄えていない(2014年)。

 保険料の料率は日本とドイツはほぼ同じなので、単純計算では、日本の方が年金受給が手厚くなっており、その分、年金財政が悪化していると解釈することができる。また赤字の補填方法にも違いがある。ドイツの場合、不足分は基本的に国庫からの補填のみだが、日本の場合には、国庫負担に加え、年金積立金の運用益による補填分がある。具体的にいうと年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用益が年金給付の一部に充当されているのだ。

 GPIFはこれまで国債中心の安全運用を行ってきたが、安倍政権の成立以後、株式中心のポートフォリオに変更され、高いリスクと引き換えに、より大きな運用益を目指すことになった。安倍政権が半ば強引にGPIFの株式シフトを実施したのは、政権維持のために株価対策を強化したかったという側面もあるが、このままでは年金財政を維持できないという切実な事情が背景にある。

【参考記事】「公的年金が数兆円の運用損!」が、想定内のニュースである理由
【参考記事】日本の巨大年金基金はこうしてカモられる

 株式の運用益で赤字をカバーする結果となっているのは、政治的な状況から給付を減額できず、かといって国庫からの補助もこれ以上増やせないからである。

 日本政府は2020年までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するという公約を掲げている。消費税10%への増税を再延期したことから、公約の実現はほぼ不可能となりつつあるが、それでも、財政健全化という旗印はまだ下ろしていない。一般会計の最大支出項目である社会保障費を大幅に拡大するという選択肢はないというのが現実である。

自立を求める社会風潮も財政健全化を後押し?

 一方、ドイツ政府の財政状況は健全そのものである。ドイツは憲法にあたるドイツ基本法において財政均衡が義務付けられており、GDP(国内総生産)に対する政府債務水準も極めて低いことで知られる。

 ドイツの政府債務のGDP比は、政府が保有する資産と相殺したネットの数値で約50%(日本は約140%)、資産を相殺しないグロスではドイツが約70%(日本は約250%)である。2014年度予算からは完全な財政黒字化を達成しており、事実上、国債発行はゼロとなった。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story