GEがボストンに本社を移し、日本企業は標準化の敗者となる
例えば、GEは航空機用エンジンで高いシェアを持っているが、大型旅客機は数百万点という膨大な数の部品で構成されている。従来、こうした部品群はそれぞれが単独で信頼性を保証する仕組みになっており、最終製品の信頼性を上げるためには、個々の部品の品質を単独で向上させる必要があった。各メーカーは、試行錯誤で部品を設計し、それぞれの故障頻度などをノウハウとして蓄積し、保守サービスにつなげていったのである。
しかし個々の部品にデジタル・センサーが搭載され、そのデータがリアルタイムでクラウドに送信されるとなると状況は一変する。いわゆるビッグデータの解析技術を使って、部品の状況や機械全体の稼働状況を監視し、故障が発生する前に、その予兆を捉えて対処することが可能となる。
このような技術が発達すれば、やがて製造業は、製品を単独で納入する形態から脱却し、製品の納入から監視、部品の交換までまるごと請け負うサービス業に変貌することになるかもしれない。人工知能の発達は日進月歩なので、機械自らが自律的に監視したり、部品の交換をプランニングするようになるのも、時間の問題である。
つまり製造業は劇的なビジネスモデルの転換期に差し掛かっており、そのような時期であるからこそ、学術的なリソースへのアクセスが容易なボストンが本社所在地として最適なのである。本社にはとりあえず800人が勤務する予定だが、うち600人はデジタル部門の専門家で占められるという。
IoTや、工場をデジタル化する概念であるインダストリー4.0をめぐっては、日本企業も取り組みを始めているが、タイミングとしてはすでに遅きに失した可能性が高い。こうしたデジタル産業は、標準化の部分が重要であり、最初に規格を提唱した陣営に圧倒的に有利になるからだ。全社をあげてデジタル化に邁進するGEを追い越して、日本勢が国際的な主導権を握るというシナリオは描きにくい。
だが日本企業にもまだチャンスは残っている。仮に主導権をGEや独シーメンスといった欧米企業に握られたとしても、マーケットフォロワーとしての立場を明確にし、欧米メーカーに徹底的に追随するという選択肢は残されている。20年前まで、日本の重電メーカー各社は、GEやシーメンスと互角に戦える可能性が見えていたという事実を考えると、少々残念なことではあるが、現実的な選択肢を見据えることも重要だろう。
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