コラム

GEがボストンに本社を移し、日本企業は標準化の敗者となる

2016年01月19日(火)15時47分

 例えば、GEは航空機用エンジンで高いシェアを持っているが、大型旅客機は数百万点という膨大な数の部品で構成されている。従来、こうした部品群はそれぞれが単独で信頼性を保証する仕組みになっており、最終製品の信頼性を上げるためには、個々の部品の品質を単独で向上させる必要があった。各メーカーは、試行錯誤で部品を設計し、それぞれの故障頻度などをノウハウとして蓄積し、保守サービスにつなげていったのである。

 しかし個々の部品にデジタル・センサーが搭載され、そのデータがリアルタイムでクラウドに送信されるとなると状況は一変する。いわゆるビッグデータの解析技術を使って、部品の状況や機械全体の稼働状況を監視し、故障が発生する前に、その予兆を捉えて対処することが可能となる。

 このような技術が発達すれば、やがて製造業は、製品を単独で納入する形態から脱却し、製品の納入から監視、部品の交換までまるごと請け負うサービス業に変貌することになるかもしれない。人工知能の発達は日進月歩なので、機械自らが自律的に監視したり、部品の交換をプランニングするようになるのも、時間の問題である。

 つまり製造業は劇的なビジネスモデルの転換期に差し掛かっており、そのような時期であるからこそ、学術的なリソースへのアクセスが容易なボストンが本社所在地として最適なのである。本社にはとりあえず800人が勤務する予定だが、うち600人はデジタル部門の専門家で占められるという。

 IoTや、工場をデジタル化する概念であるインダストリー4.0をめぐっては、日本企業も取り組みを始めているが、タイミングとしてはすでに遅きに失した可能性が高い。こうしたデジタル産業は、標準化の部分が重要であり、最初に規格を提唱した陣営に圧倒的に有利になるからだ。全社をあげてデジタル化に邁進するGEを追い越して、日本勢が国際的な主導権を握るというシナリオは描きにくい。

 だが日本企業にもまだチャンスは残っている。仮に主導権をGEや独シーメンスといった欧米企業に握られたとしても、マーケットフォロワーとしての立場を明確にし、欧米メーカーに徹底的に追随するという選択肢は残されている。20年前まで、日本の重電メーカー各社は、GEやシーメンスと互角に戦える可能性が見えていたという事実を考えると、少々残念なことではあるが、現実的な選択肢を見据えることも重要だろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏がBBC提訴、議会襲撃前の演説編集巡り巨

ビジネス

英総合PMI、12月速報は52.1に上昇 予算案で

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

ウクライナ提案のクリスマス停戦、和平合意成立次第=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story