コラム

中国発の世界同時不況になる可能性は低い

2015年09月15日(火)16時20分

中国が消費国としてもっと巨大にならない限り、世界経済の動向を決定することはない(安徽省合肥のショッピングセンター) Stringer - REUTERS


〔ここに注目〕米国の個人消費(中国の生産動向ではなく)

 中国経済の失速をきっかけに、世界的な景気後退懸念が高まっている。確かに世界第2位の経済大国が失速するということになると、各国に様々な影響が出てくるだろう。だが、経済というものは、買う人(需要)と売る人(供給)の両者が存在することで成立している。中国は規模の絶対値こそ大きくなったが、世界経済の動向を決定するほどの国ではない。今後の景気動向を見極める際には、中国ではなく米国に注目すべきである。

中国は途上国であり、製品を購入する消費国ではない

 一連の中国株ショックは、中国経済の失速が背景となっている。中国政府は、経済成長の目標を実質で10%台から7%前後に引き下げている。今年の4~6月期のGDP(国内総生産)についても、かろうじて7%を維持しているが、実態はもっと悪く、一部ではマイナス成長に転落している可能性も指摘されている。

 メディアでは「中国発の世界恐慌」といった見出しが躍っており、世界同時不況が憂慮されている。中国の名目GDPは1200兆円を突破しており、すでに日本の2倍以上の規模がある。これだけの規模の経済が失速すれば、各国に大きな影響を及ぼすのは間違いないだろう。

 だが、中国経済の失速が本当に世界的な経済危機を引き起こすのかについては、現実を見据えた上で冷静に判断しなければならない。今のところ中国の景気失速が、全世界に対して深刻な景気後退をもたらす可能性は低いと考えられる。その理由は、中国が世界経済における最終需要地ではないからだ。

 中国はこれまで、世界の工場として繁栄を謳歌してきた。中国の基本的な産業構造は、素材や部品を外国から輸入し、最終製品に加工して輸出するというもので、高度成長期の日本とまったく同じである。安い人件費を武器に、大量生産を行い、製品を各国に輸出してきた。

 国内的には、貧しい農業国から脱皮するため、各地に橋や道路、鉄道といったインフラを次々に建設し、このインフラ投資需要が成長を支えてきた。この図式も、高度成長期の日本とまったく同じである。

 だが過剰なインフラ投資が限界に達したことや、安い労働力を武器にした製造業が、徐々にベトナムなど東南アジアの国々にシフトしたことで、中国の成長に陰りが出てきている。これが一気に表面化したのが今回の中国ショックということになる。

世界経済の動向を決めるのは結局、アメリカ

 だが、これはあくまで中国内部の話であって、世界経済全体の動向を示しているわけではない。中国はあくまで輸入した素材を加工して輸出する加工貿易の国であり、最終製品を購入する国ではないのだ。

 中国の1人あたりGDPは約7600ドルと日本の5分の1の水準しかない。1人あたりGDPは乱暴に言ってしまえば、国民の平均的な年収に近い。平均年収が100万円以下では、世界の供給をカバーすることが不可能であることは容易に想像がつくだろう。絶対数が多いので目立っているが、中国人の爆買いは、一部の富裕層だけの現象なのである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、フェンタニル巡る米の圧力に「断固対抗」=王外

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 5
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 6
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story