なぜロシアは今も「苦難のロシア」であり続けているのか
共産主義とは資本主義の先にある最も進んだ経済段階で、そこでは人間による人間の搾取はなく、「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」パラダイスが実現することになっている。しかし、まだ資本主義さえ確立していない遅れたロシアで「共産主義」を実行したため、ねじれが生じた。
まず経済建設の資金をひねり出すため、農民は低い生活水準のまま集団農園に縛り付けられた。何のことはない。農奴制への逆戻りだ。そして、全ての工場・銀行・商店は国有化され(それはレーニンの意図するところではなかったが、従業員が勝手にそうした)、従業員たちは絶対解雇されることのない、完全雇用を謳歌するようになった。
経済活動は全て計画化され、自由な事業はできなくなる。計画された商品を計画された量だけ生産して、指定されたところに出荷すれば、それで終わり。それが店で実際に売れようが捨てられようが、工場長も従業員も計画された賃金をもらえる。これで経済は自律的に発展する活力を失い、ロシアに近代は成立しなかった。
だから工場従業員は、「働いているふり」で劣悪商品をつくる。企業長は彼らに「給料を払っているふり」をする。なぜ「ふり」かと言うと、店に行っても欲しいものは売っていないからだ。
現在の日本では、格差拡大が批判され、政府が介入して公平な分配を実現するよう求める人が多い。しかしソ連の共産主義では、平等がかえって幹部の特権を助長した。
どういうことかと言うと、ソ連時代、自動車や住宅の価格は低めに抑えられていたものの、自由には買えず、一種の配給制になっていた。企業の労働組合が配給の順番を決めるので、組合書記はおいしい仕事になる。いつも付け届けがあるのだ。
ソ連時代の有名なオペラ歌手ガリーナ・ビシネフスカヤが書いた自伝には、夏の休暇でちょうどいい時期に労組の「海の家」を使わせてもらえるよう、労組の書記におべっかを使う話が出てくる。
ソ連時代、こういう「なんちゃって平等」社会、嘘と偽善で固めた社会を嫌って批判の声を上げるインテリは何人もいた。「反体制家」と呼ばれていたが、当局は彼らの多くを精神障害者として扱い、精神科病院に入れ、薬漬けにして思考能力を奪った。
大衆は、働くふりをしていれば何とか食える社会を満喫。努力して抜きんでようとする者、体制に不満を言う者は迷惑だとばかり、全国津々浦々に染み込んだ共産党組織、そして公安警察KGBに密告した。つまり、よそから見れば抑圧された権威主義の社会は、実は大衆に支持されていたのだ。
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