コラム

欧米の「奴隷経済」とは違う。日本の会社は(そんなに)悪くない!

2022年06月15日(水)11時00分

「 元気がない」が日本企業は世界第3位の経済規模を誇る OOYOO/ISTOCK

<コロナ禍でも堅調な「国家の支え」に贈る、飛躍のための座標軸>

日本の企業は日本の支え──日本人は全員が社長か会社員とさえ思うのだが、彼らの多くに元気がない。

世界での競争に負ける、外国のハゲタカ・ファンドに利益を吸い取られる、経営陣は時代の先が読めない上に、社員は不要な書類の作成に時間を取られるばかり、というわけだ。

しかし1億2500万の人口を養い、世界3位のGDPを維持し、コロナ禍なのに法人税収入は伸びている。日本の会社はけっこう頑張っているのだ。昨今の値上げラッシュで業績はますます上向くことだろう。

それでも、日本の企業の多くが問題を抱えているのは事実。その傾向と対策を考えてみる。

よく日本の企業を欧米の企業と比べて、ここが足りない、ここが駄目だと言う人がいる。比較はいいのだが、日本の企業は欧米とは違う原理で動いていることを肝に銘じないといけない。

欧米の企業では、古代ギリシャ以来の奴隷経済の流れなのか、社員・従業員を「使うもの」と見ている。一方の日本では、まるで企業が中世のムラであるかのように、社員・従業員全員で会社を形成している。

そのため、利益率が低くても彼らの雇用を守るために陳腐化した製品を大量に販売して生き残る。欧米ならば、こうした不採算部門は他に売却することだろう。つまり日本の企業は社会主義的な側面も持っているのだが、それはそれで捨てるべきではない。

次に、多くの日本の企業では営業、総務・財務、技術と人員の塊ができて、それが派閥を形成し、数年ごとのローテーションで社長のポストを回していく。下手にイノベーションをして失敗すると、このローテーションを狂わせるから、リスクになることは避ける。

こうなると、今のように状況が急速に変わっていく世界では、後手に回る。この「病気」への特効薬はない。社員たちが立ち上がって自らを変えなければ、会社はつぶれるか、外国人に身売りということになるだけだ。

日本経済新聞の「私の履歴書」に登場する企業幹部は素晴らしい人たちばかりだが、それでも急激に変化する現在の世界に伍してやっていける人は限られる。そうした人材を増やしていくためにも、政治・経済・社会を自分で分析する力・手法を、大学までの教育でもっと意識的、系統的に教え込むべきだ。

そして、就職活動のために留学しない・できないという悪弊をたたき壊すため、留学帰りの者への採用枠を別につくる。なぜ留学がいいかというと、外国語を習得するのはもちろん、外国人は日本人とは違う原理で動くことを会得し、これに瞬時に対応する習慣を身に付けることができるからだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米11月中古住宅販売、0.5%増の413万戸 高金

ワールド

プーチン氏、和平に向けた譲歩否定 「ボールは欧州と

ビジネス

FRB、追加利下げ「緊急性なし」 これまでの緩和で

ワールド

ガザ飢きんは解消も、支援停止なら来春に再び危機=国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 8
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 9
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story